Interview
#66

カフェやアザラシで癒され
吉方位へランチを買いに
「辛酸なめ子ワールド」の裏側

辛酸なめ子さんNAMEKO SHINSAN

漫画家
コラムニスト

1974年生まれ、東京都出身、埼玉県育ち。女子学院中学・高等学校を卒業後、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。在学中から執筆活動をスタートし、インターネットの黎明期よりWebサイトを立ち上げエッセイを発表して注目を集める。『女子校礼賛』『無心セラピー』『電車のおじさん』『新・人間関係のルール』『辛酸なめ子の独断!流行大全』『辛酸なめ子、スピ旅に出る』『大人のマナー術』など著作多数。
https://ameblo.jp/shinsannameko

人間の内面や現代社会を、皮肉とユーモアを交えて描く作風が人気の、漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さん。その関心領域は、人間関係の悲喜交交、美容、英語学習、ロイヤルファミリー、オカルト、スピリチュアル、投資など多岐に渡ります。辛酸さんはどのように日々のくらしから「ネタ」を見つけてゆくのでしょうか? 制作の背景にある出来事についてお話を伺ってみると、物事を見つめ、感じる独自の感性が伺えました。

仕事の合間に立ち寄った
カフェでも人間観察

人と接する中で感じた小さな違和感や、おかしみを漫画やコラムで表現する辛酸なめ子さん。どんな眼差しで世界を見つめているのか、とても気になります。友人に呼ばれたホームパーティも、辛酸さんにかかればたちまちネタの宝庫に。

「ハプニングがつきものなんですよ。最近行った、友人の引っ越しのお別れパーティは、外国人向けのヴィンテージマンションであったのですが、トイレの鍵を閉めたら開かなくなっちゃって恐怖を味わいました。その前に行った別のパーティだと、ゲストのお子さんがいきなり『霊が見える』と言い出したりとか」

また、日常の中で、周囲の人たちのなんてことない会話も耳に入ってきてしまうそうです。

「仕事の合間にカフェで時間を潰すこともあるので、そういう時に気になるシーンに遭遇することはありますね。この前は隣に若い女性のグループがいて、そのうちの一人が、婚約中に付き合っていた男性の浮気が発覚してとても怒っていて、でも、聞いている友達はパソコンで仕事をしながら聞いてるんですよ(笑)。友達が相談してるのにひどいな、って気になっちゃって」

辛酸なめ子さんイメージ
辛酸なめ子さんイメージ

株の含み損が不安で
迷い犬の懸賞金に心揺れる

さまざまな取材を敢行し、実体験をもとに作品を生み出していくのも、辛酸さんの特徴。「行ってきました」「やってみました」と、果敢にチャレンジを重ねています。

「ちょっと珍しい体験をしたなぁ、という時や、ややマイナスに感じる体験でも何かしら『発見』があると思った時は書きたくなりますね。自分にとっての学びを探しているような感じがします」

しかし最近の目下の悩みは、「素人」と自称しながらも飛び込んだ投資の世界で膨れ上がる含み損なんだとか・・・・

「もうこれからは半導体しかない、生成AIだ、みたいな付け焼き刃の知識で買ったら、この前の8月の株価の暴落で半導体がけっこう下がっちゃって、生成AIもブームが落ち着いてきちゃったんですよね」

物価高も続き、老後のことを考えると全く安心できない、と吶々と語りながらも、ここから彼女の独自の世界が炸裂するのが面白いところ。

「含み損が本当にすごかった時は眠れなかったですし、代々木公園の近くで『行方不明になった犬を見つけてくれた方に500万円』というポスターを見つけて、本当に探しに行こうかと思ったくらいでした。犬のことなんて何も知らないのに、犬用のチュールを使ったら来てくれるのかな・・・・なんて。冷静に考えたらおかしな話だけど、それくらい追い詰められていました(笑)」

辛酸なめ子さんイメージ

「ふつう」「マジョリティ」の
外側から

制作の原動力となる視点はどのように培われたのでしょうか?子どもの頃のお話も聞いてみました。

「小学校時代は転校が多かったのと、鍵っ子だったので、内向的なほうだったと思います。あと、私が住んでいた埼玉は『運動ができる子が偉い』みたいな空気があって、全く運動ができない私はクラスの中でも隅にいたという感じですかね。メジャーなグループにはなかなか入れなかったので、クラスの人間関係とかを観察していたかもしれません」

そして中学・高校は、都内の名門私立、女子学院に進学。活発に自然体で過ごすことができる学校生活だったそうです。

「女子校を卒業して半分が男性という社会に出ると、普通にちょっと感想を言っただけなのに『きついね』『批判精神が旺盛なんだね』と言われちゃうのは、ギャップを感じましたね。率直に話しているだけなのに妙に怖がられてしまうというか」

「ふつう」「マジョリティ」とされる集団の外側から世界を見つめる現在のスタイルがどのように生まれたか、その来し方から少し伺えるような気がします。

辛酸なめ子さんイメージ
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「吉方位」を目掛けて
お昼ご飯を買いに行く

お仕事と「くらし」が渾然一体となっているような印象を受けますが、どんな一日を送っているのでしょうか。

「作業や執筆がメインの日は、7時くらいに起きて、朝食を食べてから仕事に取り掛かります。ちょっと休憩をしたいな、という時には、せっかくだったら吉方位に出かけたいなと思って・・・・

吉方位?

「その方向に移動すると運気が良くなる、っていう方角です。方位学という学問があるくらいで、私が参考にしているのは奇門遁甲の吉方位。昔、中国の皇帝が戦争の時に兵をこの方向に動かすと勝てる、と兵法で用いたのが発祥のようです。本やネットで吉方位を調べて、今日のお昼を買いに行く場所を選ぼう、みたいなのをたまにやってます」

さすが、スピリチュアル界に関しても数々の取材を経て書籍を手掛けられているだけあって、造詣が深い辛酸さん。

「休憩を挟んだら、あとは延々と仕事してますね。夜はどこかに食べに行ったり、デパ地下で買ってきたりという感じ。集中するためにも朝起きた時と夜寝る時に瞑想をしてます。いろんなニュースを見ると不安になりますし、世の中不安にさせることが多いので、ちょっと浄化というか、『無』になりたいな、と」

辛酸なめ子さんイメージ

立ち止まらずに、
さまざまな挑戦を続ける

そんな暗いニュースが多い中、精神的な癒しになっているのは動物のコンテンツ。最近気になったのは、野生のアザラシの子どもをケアして自然に返す活動を行なっているオランダの団体のライブ配信で、「アザラシ幼稚園」の愛称で大バズリしているとのこと。

「アザラシが立った状態で泳いでるのをみんなで『茶柱』と呼んで盛り上がったり、スパチャで投げ銭をしたり、ここ最近のブームの中では楽しかったですね。あと、パンダが2頭中国に帰っちゃったのも寂しくて・・・・

また、大の猫好きで、外出すると必ず歩いている時に猫を探してしまうのだとか。そして、「おしゃれな空間」を求めることもくらしの中の大切なポイントなんだそう。

「一日に一回はおしゃれな空間に行きたいんです。それが、株が上がった以外ではくらしの中で一番わくわくすることです(笑)。自分の雑然とした部屋にいるよりも心が洗われます。カフェでボーっとしていると仕事のアイディアも浮かんだりします」

立ち止まらずに、どんどん出かけ、挑戦する姿勢が印象的です。将来は、どんな目標を思い描いているのでしょうか?

「これからは、仕事以外でも絵を描いていきたいな、と思って画材を買ったりしてるんです。あとは、友人で歌人の笹公人さんの勉強会に参加して短歌を作ったりもしています。今後も、漫画やイラストを描き続けたいですし、あとは、将来の安定を考えてどこかの企業の社外取締役になってみたいと妄想してます(笑)」

辛酸なめ子さんイメージ
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辛酸なめ子 Everything Has A Story
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