くらしを50年支える
名品を産む
八重樫打刃物製作所の看板の下には、「包丁、ハサミの研ぎ直し承ります」の文字が。毎日、近隣の方が「研ぎ」の依頼で訪れるそうです。
「他だと、『ここで作った包丁しか研ぎません』っていうところもあるみたいですけど、うちはそんなことないです。包丁は毎日使うものですから、困っちゃうでしょ」
と、明るく教えてくれた八重樫さん。江戸打刃物の伝統工芸士として、その技法を守り続けています。良質な鋼として知られる、島根県の砂鉄を原料とする安来鋼のみを使用し、一丁ずつ火造りを行い、大槌を振り下ろして成形。「宗秋」の刻印が入った包丁は、手入れをすれば50年は鋭い切れ味を維持し続ける名品です。
「たまに、自分の親の代から使っているという包丁を研ぎにいらっしゃる方もいますよ」
昔、八重樫打刃物製作所は包丁と彫刻の鑿(のみ)を専業としていましたが、依頼があればできるだけ応える、というスタンスで製造の幅を広げてきました。中には初めて作るものもありますが、八重樫さん曰く、「基本ができればあとは応用」とのこと。現在では大工道具、先端産業の工場で使われるバイト(切削工具)、理容師の剃刀、そば包丁など多くの刃物を手がけています。