土地と、ぶどうと、
人が産む奇跡
ワイン造りの真髄はなんと言っても、その土地が持つ個性を最大限に活かすこと。同じ醸造酒であるビールや日本酒と比べると、果物は穀物と違って足がはやいため生産地から移動させづらく、ワインの多くがぶどうの産地で醸造されているというのが大きな違いです。
「ワインは造り手や土地にまつわる色んな物語を携えています。フィリップ・パカレというボジョレーで有名な醸造家がいますが、『土地と、そこで育ったものと、そこに人が加わっての〝テロワール〟(直訳で風土、土という意味)』ということを言っていて、とても納得しました」
そう教えてくれた岸平さんは、山形県上山市で100年以上続くタケダワイナリーの5代目。フランスでワインの勉強をした20代の頃には、そのままフランスに残ることも考えたそうですが、故郷の山形に帰ろうと思ったのは、この「テロワール」の考え方があったから。
「フランスには4年いましたが、たとえ一生いてもけっきょく〝異邦人〟なんですよね。山形県上山は紛れもなく私の生まれ育った場所。そしてワインを造る上で気候条件なども揃っています。だから戻ってきたんです」
山形というと日本酒のイメージもありますが、近年ワインの産地としても注目されています。上山市で毎年開催される「山形ワインバル」は有名で、人口3万人の町に約5000人が訪れるほどに。最近では上山市で「乾杯は、かみのやま産ワインで」とワイン消費を推進する条例ができるなど、行政主導による〝追い風〟も吹いてきているそう。