Interview
#52

人生そのものがステージ
1人のドラァグクイーンの
自分を愛する生き方

ドリアン・
ロロブリジーダさんDURIAN LOLLOBRIGIDA

ドラァグクイーン

1984年生まれ、東京都出身。大学生だった2006年からドラァグクイーンとして活動をスタート。会社員として営業・PRのキャリアも積むが2020年独立。ステージでのパフォーマンスのみならず、PV、CM、映画出演など活動は多岐にわたる。ディーヴァユニット「八方不美人」、また、本名「マサキ」名義でも二人組歌謡ユニット「ふたりのビッグショー」としても活動。2023年、映画『エゴイスト』への出演他、短編映画『ストレンジ』主演も。
https://instagram.com/masaki_durian?igshid=YmMyMTA2M2Y=

「ネガティブな部分もあるし、劣等感もあるし、欠点だらけの人間です。でも、どんな自分も好きなんですよね」。やさしく心に響く、ドラァグクイーン、ドリアン・ロロブリジーダさんの言葉。ステージに立ち、見る人を魅了するパフォーマンスの裏側には、まずは自分自身に対する大きな愛がありました。他人の視線や評価が気になってしまう......多くの人が持っている悩みを吹き飛ばすような、ドリアンさんの明るさが教えてくれたこととは?

ジェンダーの
「揺らぎ」を魅せる

諸説ありますが、ドラァグクイーンの「ドラァグ」は、長いドレスを引きずる様子(drag)が語源なのだそう。男性がきらびやかなメイクとファッションに身を包み、強調された女性性を纏ってパフォーマンスを披露する、ゲイカルチャーの中で発展してきた異性装です。

「高校生の時に初めてドラァグクイーンを見て、『かっこいい!』『あんなふうになりたい!』と思いました。あの時の驚き、憧れは、今でも常に持っています」とドリアンさん。

「男性なのに、何だかよくわからないけれどものすごく綺麗になっている、ということに、言葉ではうまく説明できない衝撃を受けました。男性による異性装の歴史は、古くは海外だと古代ローマの時代、日本ではヤマトタケルミコトが女装をした記述が古事記にも残っています。それが長い歴史の中でエンターテイメントとして発展し、受け継がれてきたんだと思います」

ジェンダーの垣根を飛び越えることで生まれる魅力。それが、ドリアンさんの目指しているパフォーマンスです。

「女性が女性性を纏うのとはまったく違い、男性があの格好、あのメイクをするからこそ生まれるかっこよさがある。逆の場合は、宝塚のように女性が男性性を纏うかっこよさもありますね。自分のパフォーマンスでは、女性の装いだけれど、筋肉を見せたり、男っぽい口調にしたりと、あえて男性性を織り交ぜることを意識しています。ジェンダーの揺らぎを表現したいんです」

ドリアン・ロロブリジーダさんイメージ

「絶対に自分のファンに
してみせる」

ショータイムでは、きらびやかで艶やかなメイクとファッションに身を包みますが、「普段から芝居がかってるかも」と笑います。

「私の場合、ドリアンという独立した人格がある、みたいな感覚ではないんですね。装っている自分も、地続きにありのままの自分だな、と感じます。日常の中でも、おしゃれな街を歩いてる時は気持ちが乗って、ランウェイにいるような動きになってしまうし(笑)。このあたりの感覚は、ドラァグクイーンさんそれぞれに違いがありますね。マスカラをつけた途端スイッチが入る、という方もいらっしゃいます」

大学時代からドラァグクイーンの活動を初め、2020年で独立するまで、会社員として営業、PRのキャリアも積んでいました。明るいキャラクターは仕事にも大いに生きたそうです。

「自分を良く見せるハッタリが得意だったと思います。私、優秀でしょ、っていう雰囲気を出す感じ? 商談の時は、まずはこの自分を好きになってもらうことが大事だと思っていました。最初の印象はビハインドでも、状況をひっくり返すのが好きで。ステージに立つ時も同じで、どれだけアウェイな空間でも、『このステージが終わった時には、絶対に自分のファンにしてみせる』っていう気持ちがあるんですよね。それが自分にとって、あらゆることの原動力になっているような気がします」

ドリアン・ロロブリジーダさんイメージ
ドリアン・ロロブリジーダさんイメージ

人生そのものが
ステージ

ドリアンさんの好きな言葉は「ショーマストゴーオン」。人生そのものがステージで、街を歩いている時も、人と話をする時も、生きている以上は常にステージに立っているような感覚を忘れたくない、と語ります。

「常に明るく見えるかもしれないですけど、仕事で営業がうまくいかなかった時なんかは人並みにヘコみますし、反省もしますよ。でも、ちゃんと反省して、自分の改善点はたくさん見つけつつ、どこかで『あの人たち、見る目ないわね』『もったいないことしたわね』って思ってるかも......(笑)」

自己愛の化け物、と自身を分析しますが、その強い自己肯定感は十代の頃から培われていたそう。

「中高一貫の学校に通っていた時、3回くらい、自分の靴が貯水池に捨てられていたんですよ。でも、私はいじめられているとは捉えなかった。『私はこんなに輝いているんだから、そりゃ妬むよね』って思っていました。1415歳の時にはすでに、そういう超ポジティブなメンタリティを持っていたんじゃないかな」

ドリアン・ロロブリジーダさんイメージ

まずは自分を
愛してあげて

学生時代から頻繁に新宿二丁目に遊びに行っていたそうですが、「ゲイ全体の人口で見ると、ああいう飲み屋街に積極的に出てくる人の方がはるかに少数派」とドリアンさん。

まだ日本では婚姻の平等は実現していませんし、異性愛規範も根強く、性自認や性的指向に悩んでいる人が数多くいるのが現状です。

「若い方から、『ゲイの自分が認められない』『ゲイの自分が嫌い』というお悩みのお便りをいただくことがあります。そういう時には、言葉を尽くして、その方の立場を想像しながらできる限りのアドバイスをお伝えするようにしています」

いつも強調するのは、自分を愛してあげて、というメッセージ。

「私自身、ネガティブな部分もあるし、劣等感もあるし、欠点だらけの人間です。でも、どんな自分も好きなんですよね。そう思えるのが何より大事だと思う。まずは自分を可愛がってあげて、自分を愛してあげて、自分がやっていることを愛でてあげてほしい。それができているからこそ、人に優しさを与えられるようになると思うんですよ」

ドリアン・ロロブリジーダさんイメージ

肌がシワシワの厚化粧に
なっても、それが魅力に

活動はショーのステージだけに止まりません。2023年2月に公開された話題作・映画『エゴイスト』にも出演し、プロモーションでは日本全国を回りました。2020年にドラァグクイーンとして独立してからは、その日に入る仕事によって、行く場所も起きる時間もバラバラというくらしを送っているそう。ミュージカルに出たい、という長年の夢もあります。

「いろんなお仕事をいただきますが、全てのお仕事の起点にドラァグクイーンがある感じですね。ドラァグクイーンが歌うし、ドラァグクイーンが化粧を落としてお芝居をするし、舞台も出るし、という感じ。なので、職業は、と聞かれたら『ドラァグクイーン』と答えております」

それはまさに「生き様」とでも言うべきものでしょうか。

「そんなにかっこいいものじゃないですけれどね!(笑) でも確かに、職業でもあるし、生業でもあり......生き様とも言えるのかもしれないですね。これから先も、何年もずっとドラァグクイーンとして活動し続けていきたい。年をとって肌がシワシワの厚化粧になっても、『老愁』がまた味わいになって、すごく素敵だな、と思うんですよ」

ドリアン・ロロブリジーダさんイメージ
ドリアン・ロロブリジーダさんイメージ
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