Interview
#61

シジュウカラの「言語」を
解き明かした研究者が語る
人間が自然から学ぶべきこと

鈴木 俊貴さんTOSHITAKA SUZUKI

動物言語学者
東京大学先端科学技術研究センター 准教授

1983年生まれ、東京都練馬区出身。東邦大学理学部生物学科卒。卒業論文でシジュウカラの言語を取り扱い、同大学院に進むと、200パターン以上の鳴き声、単語・文法の存在を突き止めた。この内容をまとめた論文を『Nature Communications』に発表し世界中から注目を浴びる。立教大学大学院理学研究科博士後期課程修了。京都大学白眉センター特定助教等を経て、2023年4月東京大学先端科学技術研究センター准教授に就任し、動物言語学という新しい分野の研究室を立ち上げた。
https://www.animallinguistics.org/

世界で初めて、シジュウカラが言葉を話していると突き止めた研究者、鈴木俊貴さん。これまで感情で鳴いているとしか認識されていなかった動物が、初めて言語を操る能力を持っていることがわかり、世界中に衝撃を与えました。鈴木さんは「とにかく観察です。びっくりするくらいずっと観察ばかりしてきました」と振り返ります。その情熱の裏側にある思いや、新たに切り拓いた「動物言語学」という学問を通じて目指している未来について伺いました。

人間と動物は、
見えている世界が違う

「これまで、言葉は人間だけに与えられた特別な能力だという考え方が主流でした。従来の研究では、チンパンジーやボノボ、イルカなどに、実験室で手話を教え、理解できるかを確認し、成果があったら報酬の餌をあげる、というアプローチが多かった。それで結局、人間と意思疎通ができなかったら『やっぱり動物には言葉がない』と認識する。でも、僕に言わせればそれは当たり前。なぜなら、動物はそもそも僕らと見えている世界が違うからです」

鈴木さんの研究の独自性は、その動物のくらしや、日々捉えている世界の見え方そのものに着目した点です。

「シジュウカラは、人間みたいに両眼視ができない代わりに、目が横についているので視野がかなり広い。人間はRGBが見えるけれど、彼らは紫外線が見えてしまう。人間の世界では必要だけど、シジュウカラの世界では必要のない言葉があるから、人間中心で考えることがそもそも間違ってるんです」

鈴木 俊貴さんイメージ

世紀の発見の
背景にあったのは「観察」

鈴木さんの研究では、シジュウカラは意味を持つ鳴き声、つまり「単語」を持っていることがわかっています。「ヒヒヒ」はタカ、「ジャージャー」でヘビが来たことを知らせ、「ピーツピ」は「警戒」、「ヂヂヂヂ」は「集まれ」という呼びかけになります。

しかも、「ピーツピ・ヂヂヂヂ(警戒して集まれ)」のように、単語を組み合わせて文章も作ることができるのです。

「人間は、本の情報や先生が言っていることを信じてしまいがち。でも、鳥に言葉があると気づかせてくれたのは、観察です。僕はとにかく、びっくりするくらいずっと観察してきました」

シジュウカラは言葉を喋っている、と確信したのは大学生の時。その確信を証明するために、一定期間森にこもって膨大な鳴き声のサンプルを集め、どんな時にどのように鳴くのか、検証を続けてきました。

「森に100個ほど巣箱を設置して、日の出から日没までずっと張り付き、お昼ご飯も抜きで音のサンプルを取り、それを3ヶ月続けます。最長で10ヶ月森の中にいたこともありました」

鈴木 俊貴さんイメージ

大変な思い出はあれど
「楽しくて仕方がない」

いくら好きなこととはいえ、辛くなることはないのでしょうか?

「まずないです。楽しくて仕方がないんですよ!でも、学生の頃は今のように研究費をいただける身分ではなかったから、そういう点では大変な思い出もあります」

今はレンタカーを借り、ある森から次の森に移動できますが、お金がなかった時代は、たくさんの荷物を背負って1日15キロから20キロ雪山を歩きました。しかも、宿泊は一泊500円の暖房器具がない部屋。そんな生活を3ヶ月も・・・・

「最初に森に入った大学4年生のとき、3ヶ月いる予定が、2ヶ月で米以外の食料が尽きちゃったんです。一番近いスーパーまで片道で1時間半かかったので、往復で3時間。そしたらデータが4つ取れるから勿体無いな、と思ってしまって。米だけ食べて続けていたら、僕、身長が178センチあるんですが、体重が51キロまで落ちていました。苦労というほどでもないけど、そういうめちゃくちゃなことはしてましたね」

破天荒な研究のお話を聞いていると、「世界で一番、この鳥を見てきた自信があります」と力説するのも納得。2024年3月に発表した「シジュウカラはジェスチャーを使う」という発見も、「ずっと気づいていたけど、論文にする時間がなかった」とのこと。しかも、今も発表のタイミングを見計らっている大きな発見があるのだとか。「多分、びっくりすると思いますよ」と目を輝かせます。

鈴木 俊貴さんイメージ

動物の視点で世界を見て、
動物の「頭」を持つ

子ども時代は茨城県の利根川近くに住んでいたこともあり、魚を釣ったり、鳥の声を聞いたりして育ちました。家でカブトムシなど数々の生き物を飼い観察してきましたが、高校生の時に双眼鏡を手に入れると鳥の観察にのめり込みます。

「双眼鏡で鳥たちとの距離が近くなったと感じました。本当の意味で動物を観察するということは、僕が小鳥になって、彼らのくらす世界に入っていくこと。そう気づいてから大学で鳥の研究がしたいと思い、ずっと続けていたらいつの間にか研究者になってました」

「ジャージャー」が「ヘビ」を意味すると証明するため、鈴木さんは、木の枝を本物のヘビのように動かして「ジャージャー」という録音の声を聞かせる実験を行っています。

「シジュウカラたちは普段、枝とヘビを見間違えたりしません。でも『ジャージャー』と聞いた時だけ、ヘビだと確認するため近づいた。自分の仮説が当たっていたと確信した時、『僕の頭がちゃんとシジュウカラになってる』と、すごく嬉しかったです!」

ちなみに、犬を飼い始めてから、犬独自の知性にもまた驚かされたそう。2024年1月、World OMOSIROI Awardを受賞した際、愛犬のくーちゃんと映ったプロフィール画像はSNSでも話題になりましたが、その写真からも、鈴木さんの動物への愛が伝わってきます。

鈴木 俊貴さんイメージ

動物の言語を通じて
自然の豊かさを発信したい

動物たちの豊かな世界を解明するため、鈴木さんは「動物言語学」という新しい学問を立ち上げました。これは、動物行動学に、言語学や認知科学の分野を融合したアプローチです。学生たちへの指導や、論文の執筆、メディアへの出演を通じ、人間と動物・自然との新しい関係性を発信していきたいと考えています。

「シジュウカラの『タカが来た』という声で、他の鳥たちも一緒に逃げ出します。種を超えてコミュニケーションが成立しているんです。昔は人間も鳥の鳴き声を理解して行動していた時代があったはず。でも今は知ろうとも思わなくなりました。自然とのつながりが喪失していくにつれ、人間が自然に対して『これはやっちゃダメ』というモラルを失ってしまったことが、環境問題にもつながっていると思います。動物の言語を通じて、自然との新しい関係性を提示したいんです。ディノスさんも将来、『どの木を使って家具を作ればいいか』と鳥に教わってビジネスをすることになるかもしれませんよ」

この研究は最終的に、人間が他者に優しくなることにもつながるのでは、と鈴木さんは語ります。

「要するに、別の考えを持っている存在のことを理解しようとする活動ですからね。いつかノーベル平和賞が取れるかもしれません(笑)」

鈴木 俊貴さんイメージ
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鈴木 俊貴 Everything Has A Story
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