Interview
#64

自分の「我が」「まま」に
終わりなき書道の道を
探求する創作への思い

岡西 佑奈さんYUUNA OKANISHI

書道家

1985年生まれ、東京都出身。6歳から書道を始め、栃木春光に師事。高校在学中に師範の免許を取得。水墨画は関澤玉誠に師事。22歳より本格的に書家としての活動を始める。書家として文字に命を吹き込み、独自のリズム感や心象を表現し、 国内外で多数受賞。 自然界の「曲線美」を書技によって追求し、「自も他もなく、全ては一つであり調和している」という、自然と人間、万物の調和が世界平和の一助を担うという信条を持ち、創作活動を行う。
https://okanishi-yuuna.com/

「道(どう)の道は終わりなき道」と語る、書道家の岡西佑奈さん。独自のリズムや心象が表現された作品が注目を集め、多くのメディアで取り上げられています。お話を伺ってみると、実は、子どもの頃から人見知りだったそうで、書道は自分自身を表現するための大切な手段でもありました。そして今はサメと泳ぐことが大好きなダイバーでもあり、二児の母でもあり、数々の要素が岡西さんを作り上げています。そのくらしの様子に迫りました。

自分じゃない何者かになって
表現できたら

岡西さんが書道を始めたのは6歳の時。転校した際、会えなくなってしまった前の学校の友人と会えるよう、両親が書道教室に通わせてくれました。

「私は人見知りが激しい性格で、幼稚園に入った時は一ヶ月間誰とも喋らなかったそうです。あと、家に届く『ディノス』のカタログを見ながら、自分の理想の住居を空想する遊びに熱中していたような子どもでした(笑)。書道教室では、みんなが並んで正座して、机に向かって書くのですが、友人たちが周りにいながらも自分一人の世界に入っていける書道は、自分に合っていたのかなと思います」

その後、友人たちが書道教室を辞めていっても通い続け、高校在学中に師範の免許を獲得するまでに成長。しかし、高校2年生の時に見た蜷川幸雄さんの舞台「マクベス」の大竹しのぶさんの演技に圧倒され、一度は「女優になりたい」という夢を追いかけ、書道から離れていた時期もありました。

「私は自分を表現することや、コミュニケーションが本当に下手で、それが長くコンプレックスでもありました。自分じゃない何者かになって表現できたら生きていけるかもしれないと思って、のめり込んだのが演劇の世界だったんです」

岡西 佑奈さんイメージ
岡西 佑奈さんイメージ

22歳、久々に筆を取って
衝撃を受けた

進路に悩んだ18歳の頃、師匠が亡くなったことも重なり、女優という夢を追いかける決意を固めるためにも、筆や硯などの道具を全部入れたダンボールを、「外からガムテープでぐるぐる巻きにした」と言います。でも、22歳で久々に筆を取った時、雷に打たれたような衝撃を受けたそう。

「私、書道がやりたかったんだ、すごく好きだったんだ、と改めて気づいたんです。書道で、もっともっと自分の世界観を築き上げたいと思って。そこからは、迷いなくこの道を歩き続けてきました」

今や岡西さんは、国内外で数々の賞を受賞するほか、企業や店舗のためのロゴの制作、書道のライブパフォーマンスや展示が大きく注目される書道家。「自然」というキーワードから、多くのインスピレーションを受けています。

「私は東京育ちですが、母の実家は群馬県の自然豊かな場所にありました。雲の流れや動物が跳ねる様子、葉っぱが落ちてくる様子など、群馬の自然から多くを学んだ気がします。それから趣味のシャークダイビングでサメの泳ぐ姿を見る中で、この美しい姿、美しい曲線を、なんとか作品で表現したいという強烈な思いが芽生えました」

岡西 佑奈さんイメージ

美しい海の世界、
サメの姿を作品に

そう、岡西さんを語る上で欠かせないのが、「サメ」の存在。昔はサメの研究者になることも夢だったというほど子どもの頃から魅了されており、サメと一緒に泳ぐためにダイビングの練習に明け暮れライセンスを取得しました。

「もともと、自分にはない『強さ』を持った生物に惹きつけられていました。例えば恐竜のティラノサウルスが大好きだったのですが、大阪の海遊館でジンベエザメを見た瞬間からサメに浮気をしてしまいました(笑) ! サメは軟骨魚類で、骨が柔らかいので、曲線を描きながら泳ぐ姿がとても綺麗なんです」と〝サメ愛〟を熱く語る岡西さん。

海の青、海に入ってくる光、そしてサメの銀色の体など、その美しさをなんとか書やアートで表現できないかと、写真は撮らずに目に焼き付けたそれらの光景を再現しようと筆を走らせます。「青曲」というシリーズは、海を泳ぐサメの姿をモチーフに、海の環境保全への願いも込めて制作されました。

「一番の趣味はダイビングで、とにかく潜りたい! という感じ。海の中は言葉がいらないから、人見知りの私にはもってこいなのかもしれません。海では必ずバディと組んで泳ぐのですが、アイコンタクトで合図したり、心を通じ合わせれば、アイコンタクトの必要なく進んでいくことができるんです」

岡西 佑奈さんイメージ
岡西 佑奈さんイメージ
岡西 佑奈さんイメージ

忙しい毎日も、
家族のおかげでメリハリが

書道家として活動しながら、2歳と0歳の子どもを育てる母としての顔も持つ岡西さん。忙しい毎日を送る中で、オンとオフを切り替えるためにどんな習慣を取り入れているか気になります。

「子供の成長は早く、一瞬一瞬の変化も見逃さないように家族と過ごす時間をとても大切にしていますが、朝家を出てアトリエに向かう途中で一気にモードが切り替わります。一人だった頃は、夜中の何時まででも仕事をしていましたから、逆にメリハリがなかったと思います。今は大変ですが、家族がいるおかげで仕事に集中できる側面もある気がします」

また、心がけているのは、毎日、必ず自分のための時間を作ることだそう。

「お香を焚きながら坐禅を組んだり、ヨガをしたり、本を読んだり。そういう時間を10分でいいから持つようにしています。呼吸を整えることに意識を集中させながらストレッチするだけで深い眠りにつけるんです」

では、一日の中で、いちばんわくわくするのはどんな瞬間でしょうか?

「常にわくわくしていると思うんです。料理をしている時も、刻一刻変化する夕焼け空を眺める時も、カフェで音楽を聴いている時も。でもやっぱり仕事は自分にとって特別な存在で、作品の中で自分自身を嘘なく心のままに表現できた瞬間が、一番心踊ります」

岡西 佑奈さんイメージ
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自分に嘘をつかず、
自分本来の姿に戻っていきたい

今岡西さんが取り組んでいるのは、これまでの活動の中で生まれた書き損じの和紙を再利用したシリーズです。自ら漉き直した和紙を青く染め、唯一無二の風合いが誕生します。いずれは和紙の職人ともコラボレーションしたい、と希望を教えてくれました。

そして、印象深かったのが、「道(どう)の道は終わりなき道」という言葉。岡西さんは師匠が亡くなってから独学で書道と向き合い、自分のスタイルを探求してきましたが、最近、新たに師事したいと思える師匠と出会い、貪欲に学びを吸収しているそう。

「人間らしいおばあちゃんになっていきたいな、自分らしく年を重ねていきたいな、と思うんです。自分に嘘をつきたくないなって。『我儘』という言葉には自分勝手なイメージがあるけれど、そうではなくて、自分の『我が』『まま』に生きたい。そういう人って、とっても素敵だなと思うんです。私が一番好きな漢字は『儘』の字なのですが、これは、人偏に、上が『筆』で下が『皿』ですよね。人が筆を持って、お皿の中を掃いてどんどん空っぽにしていく、という成り立ちです。人が自分の中を空っぽにして、どんどん余計なものを削ぎ落とし、自分本来の姿に戻っていくという意味だと私は捉えています。そういう姿が、人生の最終的な目標です」

岡西 佑奈さんイメージ
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岡西 佑奈 Everything Has A Story
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