Interview
#39

人工流れ星を見上げ
子どもたちが宇宙に憧れる未来を
異色のベンチャー企業創業者の思い

岡島 礼奈さんLENA OKAJIMA

株式会社ALE代表取締役/CEO

1979年生まれ、鳥取県出身。東京大学理学部天文学科卒業後、同大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号を取得。研究のための資金調達に奔走する研究現場に課題を覚え、「お金の流れ」を学ぶため外資系金融機関のゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。2009年に人工流れ星の研究を始め、2011年に株式会社ALEを設立。宇宙開発とエンターテインメントの融合を掲げ、2023年以降のサービス公開を目指し研究を重ねている。
https://star-ale.com/

岡島礼奈さんの出身地・鳥取県は、「星取県」とも呼ばれるほど星が綺麗に見える場所。幼い頃から美しい夜空に慣れ親しんできたそうです。中学時代に『ホーキング、宇宙を語る』という本を読んで空に憧れ、天文学を学んだ彼女が「人工流れ星」を実現させたいと株式会社ALEを立ち上げたのは2011年。長きにわたって宇宙への夢を支えてきた原動力、そして、宇宙について研究することは、地球での私たちのくらしにどのような影響もたらすのかを伺いました。

星空の美しい故郷が
育んだ夢

「大学で東京に出てきて思ったのは、空が全然違うということ。鳥取の空は綺麗だったんだと改めて意識しました。県庁所在地から天の川が見えるなんて、鳥取くらいじゃないでしょうか」

株式会社ALEの代表として人工流れ星の実現を目指す岡島さんがおすすめする地元の星空スポットは鳥取砂丘。3年前の8月には、天の川の中にペルセウス座流星群を見るという貴重な体験をしたそう。自然豊かな地域で育ったことは、科学の分野に興味を抱く素地になったのではと振り返ります。

「『あれって何だろう』と疑問を持って追求していくことは科学の営みそのもの。好奇心を育めたことは幸いだったと思います」

そして、中学生の時にベストセラーになっていた『ホーキング、宇宙を語る』を読んだことが、宇宙に興味を持つ直接的なきっかけになりました。
「中身はそんなに理解できなかったんですが、ブラックホールとか、ビックバンがどうとか、何かすごい世界があると、とにかくワクワクしたんです」

岡島 礼奈さんイメージ
岡島 礼奈さんイメージ

「研究職は向いていない」
実感した東大時代

東京大学理学部に入学し、三年生の進路振り分けで専攻を選ぶことになりましたが、「落ちこぼれすぎて宇宙系を選べなかった」と振り返ります。すると、例年人気の天文学科が定員割れをしており、運よく選ぶことができたそうです。

「ノーベル賞を受賞された物理学者の小柴昌俊さん(東京大学理学部出身)が、公演でご自身の東大時代の成績表を見せて『僕は成績悪かったんですよ』とおっしゃっていて。でもそれ、私よりいいんですよ。一度小柴さんにお会いした時にそうお伝えしたら、『そりゃすごいな』と(笑)」

難解な授業についていくことができず苦戦したものの、研究者になりたいという憧れを持ち続けて博士課程まで頑張ろうと決意。しかし、そこで自分は研究員には向いていないと悟ったとか。

「同級生たちは、休みの日もご飯を食べている間もずっと研究の話をしてるんです。私はそこまで没頭できませんでした。私よりも頭が良い上に没頭しているのでこれは勝てない、自分は研究職には向いていないと思いました」

実力不足を経験した東大時代でしたが、実は学部生の時から「人工流れ星」のアイディアを抱いていました。

「でも、当時はどうやって実現すれば良いのかも全然分かりませんでしたし、『いつかできたら楽しいな』くらいのささやかな夢でした」

岡島 礼奈さんイメージ
岡島 礼奈さんイメージ

ついに人工流れ星の会社が
できるまで

研究職を諦めた岡島さんを次のフェーズへと押し上げたのは、とある課題意識でした。

「大学の先生たちが、研究のための資金調達に苦戦する姿を見てきました。望遠鏡の設置などが分かりやすい例ですが、天文学って、お金をかければかけるほど遠くが見えるという世界なんです。私には研究に没頭する力はありませんでしたが、物事を俯瞰して見ることは得意だった。なので、私は研究しやすい環境を作ったり、新しい資金調達の流れを作ったり、そういうアプローチで科学の発展に貢献できるんじゃないかと思いました」

お金の流れを知りたい、と思い、大学院を卒業した岡島さんが就職先に選んだのはゴールドマン・サックス証券株式会社。入社した直後にリーマンショックが起こり、部署の縮小などの影響も受けて1年ほどで退社しますが、投資家がどのような視点で物事を見ているのか、など大きな学びがあったそう。その後、念願の人工流れ星の研究を始め、2011年に株式会社ALEを設立します。

現在は、人工流れ星を夜空に降らせるエンターテインメント事業、流れ星から大気データを収集し気候危機・災害対策などに役立てる事業、さらに、宇宙ごみ(スペースデブリ)の拡散防止装置の開発事業の3つを主軸としています。

岡島 礼奈さんイメージ

常識にとらわれない思考が
地球を救う

そもそも、流れ星を人工的に作ろう、という常識にとらわれない発想に驚いてしまいますが、岡島さんの思考法とは一体どのようなものなのでしょうか?

「何かを考えるときに、制限を意図的に取っ払うことが多いですね。お金の問題もスケジュールの問題も、まずは忘れて考えてみる。でも、これって理学部出身の人間には共通する思考法だと思います。同級生たちと雑談しているとよく、『それ本当?』『常識って言うけど国によって違うんじゃないの』など、本質をついたやり取りになるんです。私たちにとって制限というのは『物理法則』しかないから(笑)」

株式会社ALEは現在、「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」という理念を掲げています。「宇宙を文化圏にする」とはどういうことか、私たちのくらしにどう関わってくるのか。岡島さんが明確なビジョンを説明してくれました。

「宇宙開発の会社の中でも、うちの立ち位置が少し特殊なのが、地球をより住みやすくするため、という思いがあるんです。宇宙空間という極限状態で住むための技術は、地球上の過酷な地域で住むために応用できます。科学技術は自然を破壊するものとして描かれがちですが、自然保護のため欠かせない学問でもある。私たちはその可能性を信じています」

岡島 礼奈さんイメージ

子どもたちが宇宙に憧れる
未来のために

二児の母でもある岡島さん。息子たちは東京育ちであるため、自然と触れる機会が少ないのを心配しているそうです。

「だから休日になると、できるだけ意識的に遠出するようにしていますね。私自身も、子どもの頃から動物が好きだったので、やっぱり自然の中にいる時や、その中で面白い生き物を見つけた時に一番ワクワクするんです。あと、子どもと一緒に図鑑を見るのがすごい楽しくって。最近、カラーですごく綺麗なものがあるじゃないですか。子どもに読み聞かせをするふりをして実は自分が読んでるっていう(笑)」

自分が幼い頃に自然の中で科学への関心を育んだ経験を、次世代にも。そんな思いが、子育ての中にも、ALEの事業にも込められています。人工流れ星のサービス公開に向けて引き続き研究を重ねているALEですが、岡島さんには、幅広い世代の中でも特に子どもたちに楽しんでほしいという思いがあるそう。

「私たちの上の世代で宇宙開発に携わってる人たちの中には、アポロが月面着陸をするのを見て宇宙に行くことを決意した人たちがすごく多いんです。私と、そのちょっと上がガンダム世代。その次に、『子どもの頃に人工流れ星を見て宇宙開発に携わりたいと思った』という人が増えてくるような、そんな未来を作りたいですね」

岡島 礼奈さんイメージ
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