Interview
#27

ケニアのバラに教えられた豊かさ
ビジネスも自分自身の人生も
持続可能であるために

萩生田 愛さんMEGUMI HAGIUDA

AFRIKA ROSE ファウンダー
株式会社Asante 取締役

1981年生まれ、東京都出身。米国の大学を卒業後、大手製薬会社勤務を経て2011年にケニアでボランティア活動に従事。そこで、ケニアのバラに出会い魅了される。一方、失業率が40%という現実を目の当たりにし、雇用創出とフェアトレードを組み込んだバラ輸入事業を帰国後スタート。「AFRIKA ROSE」を運営する株式会社Asanteを設立。2022年3月に代表者を退くも、引き続き経営に携わりながら、新たに土壌改良とオーガニックの花畑を作るプロジェクトを進行中。
https://afrikarose.com/

何気なく部屋に飾った花の鮮やかな色や、その芳しい香りに癒された経験はきっと誰しもあるはず。2012年、ケニアのバラを日本で販売するビジネスを立ち上げた萩生田愛さんは、ボランティアでケニアに訪れた際、その力強さと生命力に驚いたそう。"愛""平和""サスティナビリティ"に関わることがライフワーク、と語る萩生田さんが生み出したビジネスの形と今後の展望とは。そして、自身のくらしの中で感じる、花がもたらす豊かさとは。

花がくらしに
もたらすもの

広尾にある「AFRIKA ROSE」を訪れると、そこにはたくましさを感じさせる色とりどりのケニア産のバラが咲き誇っています。どれもハッとするほど鮮やかで、日本ではなかなか見かけない大輪。萩生田さんがケニアのバラについて教えてくれました。

「赤道直下のケニアは、日照時間が長く標高が高いので朝晩の寒暖差が激しく、これがバラにとって非常に適した生育環境なっています。ケニアでバラに初めて出会った時には、その美しさ、力強さはもちろん、長持ちすることにも驚きました」

草月流いけばな師範でもあるという萩生田さん。それまでたくさんの花を見てきた中でもバラは繊細で優雅というイメージがあったそうですが、ケニアのバラはその真逆です。
「実は私、20代の時は日常的に花を飾る方ではなかったんです。もちろん綺麗なんですが、お水を変えたり、茎を切ったりするのがやや面倒(笑)。私のように面倒くさがりでも、長生きしてくれる丈夫なお花です」

そして、この仕事でお客様とコミュニケーションをとる中で、改めて花がくらしにもたらす豊かさに気づいたそう。

「お客様はご自身のためにお花を飾ったり、大切な方のためにお花を贈ったりする、素晴らしい習慣をお持ちです。それにはとても影響を受けました。忙しいと心が荒みがちですが、朝に5分、飾っている花の水を変えたりする余裕を持つことが、一日の精神状態を良い方向に向けてくれます。それを花が教えてくれました。」

萩生田 愛さんイメージ
萩生田 愛さんイメージ

情熱に突き動かされ、
ケニアへ

そもそも、萩生田さんとケニアのバラの出会いの背景には、どんなストーリーがあったのでしょうか?

「アメリカの大学に通っていた時に模擬国連に参加し、アフリカで貧困や環境破壊などさまざまな課題があることを勉強しました。自分も平和を実現するために何かしたいと思ったのが原体験です」

しかし、学生ではできることも限られているだろうと、まずは社会経験を積むために就職。
「日本で会社員生活が7年ほど経った時に、働いていた会社がアフリカに援助活動をすることになりました。その時、いつか携わりたいと思っていたアフリカのこと、平和の実現に貢献したいという学生時代の情熱を思い出したんです」

安定した生活を手放す怖さもありつつ、突き動かされるままにケニアにボランティアとして渡ります。当時携わったのは、教育の領域のうち小学校を作る事業。セメントを捏ねたり、レンガを作ったり、といった建設作業に従事します。しかしその中で、労働のため目の前に小学校ができても通えない子どもや、先進国の援助に慣れ切っている大人たちの姿を目の当たりにしました。

萩生田 愛さんイメージ
萩生田 愛さんイメージ
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自国のバラへの誇りを
雇用創出に

「どのように問題の解決に関わっていくことが正解なのかと、当時はかなり悩みました」

当時、ケニアの失業率は40%。生活費を得るという観点だけでなく、働くことのやりがい、人から感謝される喜びを得る機会がそれだけ奪われているということです。萩生田さんが閃いたのは、ナイロビの花売り場で見かけたバラでした。

「花そのものも素晴らしいんですが、花を売っていたお兄さんが『ケニアは輸出量が世界ナンバーワン』(※当時)と語っていた時の表情がとても誇らしげで。それを見て『これだ』と思ったんです」

元人事部員ということもあり、従業員のやる気やモチベーションには常にアンテナを張っていた萩生田さん。その花を売る男性の表情からバラに対するケニアの人々の愛情と誇りを知り、それを日本に発信することで、現地の雇用を生み出しながらビジネスができないかと考えたのです。
帰国してからは、イベント、オンラインでの販売を経て、広尾、六本木に店舗を出店するなど、ビジネスを拡大していきました。

萩生田 愛さんイメージ

どこから身内で
どこから他人ですか?

現地で雇用を生み出すことが目的でも、そこが過酷な労働環境だったり、児童労働があったら意味がないと、契約するバラ農園の環境にも気を配っています。

コロナ禍以前は、バラのファンであるお客様を日本からアフリカに招待するツアーを組み、バラ農園を訪れて現地の人たちに直接感謝の気持ちを伝える場作りも行いました。

時代の流れと共に、持続可能なビジネスとは何か、ということを人権、環境の領域から検討し続けています。現在では、輸入で発生するC02をケニアへの植樹で相殺するため、バラ1本の購入につき5円の寄付を任意でお願いしているそう。

こうした萩生田さんの行動を支えるのは、地球全体を視野に入れた、平和への想いです。

「大学生の頃から、愛と平和、サスティナビリティというテーマに、ライフワークとして向き合っていきたいと決めていました。ケニアに行った時は東日本大震災の直後だったので『自分の国が大変なのになぜ他人を助けにいくの』と聞かれて、悩んだこともあったんです。でも今は、『あなたにとってどこまでが他人で、どこまでが身内なんですか』って、聞けばよかった、と思います」

国境は関係なく、できる人がやるということ。その思いが、ケニアと日本を繋ぐ新たなビジネスエコシステムを作ったのです。

萩生田 愛さんイメージ
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仕事もくらしも
サスティナブルに

萩生田さんは自身で立ち上げた会社の代表取締役を退き取締役に。今後を第2の創業期と位置付け、新たな組織のあり方を模索しています。

「創始者の私にみんながついてきてくれた、というやり方には一区切りつける時期かな、と。会社があって人があるのではなく、会社は一人ひとりが自分の才能を発揮してやりたいことを叶える舞台だと思っています。この時期に、私自身も舞台の上で果たす役割を変えていきたい」

そして、萩生田さんのライフワークは、次にどんなフェーズを迎えるのでしょうか。

「立ち上げ期に、若かったから、ということもありますが頑張りすぎて疲れてしまったので(笑)。年齢も重ねて家族もいますし、無理なく楽しく、私自身もサスティナブルであることを目指したいです。今、個人的な活動として長期で計画しているのは、土壌を改良して無化学肥料の花畑を作るプロジェクトです」

オーガニックの花を育てる農園が少ない中、まずは土壌の微生物を復活させ、その力を活用した花畑を作りたいそう。堆肥には、家庭の生ごみ、コーヒー豆や昆布の産業廃棄物などを用い、新たな循環の仕組みを検討中です。

「日常に疲れ、心を省みることができない人は多いと思います。土と花に触れることができる参加型のコミュニティを作りながら、心の内側にも花を咲かせられるような活動にしたいですね」

萩生田 愛さんイメージ
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