Interview
#46

スウェーデン出身・日本庭園の庭師
伝統の世界に魅せられ発見した
日本の〝美〟の本質とは

村雨 辰剛さんTATSUMASA MURASAME

庭師・タレント

1988年生まれ、スウェーデン出身。幼い頃から日本に興味を持ち、スウェーデン在住時から日本語の勉強を始める。23歳で、日本の伝統的な職業につきたいと造園業の仕事を始め、徒弟制度の中で修行を積む。2015年に日本国籍を取得し村雨辰剛へと改名。現在は独立して全国各地で庭師としての仕事のほか、モデル、テレビ番組やドラマへの出演も多数。『みんなで筋肉体操』(NHK)、2021年の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)など。
https://www.youtube.com/c/murasamewagurashi

日本の伝統文化に関わる仕事がしたい。そんな情熱を胸に、スウェーデンから単身日本にやってきた青年が造園の世界に飛び込んだのは2011年のこと。修行を積み2015年、26歳で日本に帰化、名前を村雨辰剛と改めます。やがて、庭師を本職としながらテレビ番組やドラマなどに出演し、タレントとしても注目されるように。伝統の世界に新たな風を吹き込む村雨さん。彼が愛してやまない日本の伝統的なくらしの魅力や、美意識の本質にせまります。

自然に寄り添い生まれた
日本人の美意識

「日本で働くと決めた当初は、伝統文化に関わる仕事がしたい、徒弟制度で修行がしたい、という漠然とした思いしかありませんでした。仕事を求めて求人誌をめくっていた時、造園業を見つけたのは本当に偶然です。造園ってなんだろう? と、そこで初めて知りました」

村雨辰剛さんと庭師という職業との出会いは、とても運命的なものでした。仕事を始めてかなり早い段階で、これは一生続けたい、と思ったそうです。

「日本庭園は自然の中の本質的な部分を引き出して、自然を再現しているのが素晴らしいところ。小さな庭でも壮大な自然を感じられます。一方で、西洋の庭はどちらかというと、自然を人間の手で制御しようとする感覚があるかもしれません。日本人の美意識は、自然に寄り添う中で生まれていると思うんです」
自然と触れ合う庭師の仕事は、まさに日本の伝統的な〝美〟を知るにはぴったりと言えるもの。独立してから、造園の仕事の中でも日本庭園に携わる仕事を軸に据え、さらなる探求を続けています。

村雨 辰剛さんイメージ

「和暮らし」が現代人に
教えてくれること

2020年からは、念願だった日本の古民家での暮らしをスタート。自宅をDIYし、住みやすくアレンジを加えていく様子をYouTubeチャンネル「村雨辰剛の和暮らし」でも配信しています。

「築年数はかなり経っているので、不便なところも多いですが、精神面ではかなり満たされているんです。その時に咲いている花を家に飾ったり、床の間に季節の掛け軸をかけたり、四季を感じられる生活が良い。また、和室って、余計なものがなくて広く感じますよね。昔の人は必要なものを必要な時に出し、使い終わったらしまう、という丁寧なくらしをしていたんだと思います」

そんな「和暮らし」に比べると、現代日本のくらしは、自然と切り離され、伝統的な要素が排除されているように感じますが......。

「日本は時代の節目で外国の影響がどんどん入って、生活が大きく変わらざるを得ませんでした。今は、便利にはなったけど、本当に豊かなのかな? と考えるべきところに来ているかもしれません。お祭りや行事で、誰かが残そうと頑張らないと消えてしまう物がたくさんあります。消えてから寂しく思う、となる前になんとかしないと」

村雨さんは、伝統文化をくらしの中に取り入れ、継承していくためにはどんな工夫が必要だと考えているのでしょうか。

「伝統的なものって、『難しそう』『高そう』といった誤解を受けているものが多いんですよ! たとえば着物。絹だけじゃなく、簡単に洗える木綿もあって、かしこまった場でなくても着られます。知識がないまま伝わっていることが多いので、それが勿体無い。無理なく、みんなでできる範囲で興味を持って、生活に取り入れていくのが良いのでは、と思います」

村雨 辰剛さんイメージ
村雨 辰剛さんイメージ

自分にとって
〝良いもの〟を習慣に

庭師以外にも、タレント活動で知られる村雨さん。スウェーデンで高校卒業後、日本に移住した当初は「まさかこんな30代を過ごすことになるとは思いませんでした」と振り返ります。

「本来、自分が表に出たい、という性格ではないんですよ。だからずっと木と向き合っていられる庭師は天職(笑)。でも、メディアに出させていただくことで、新しい自分に出会うことができるのはうれしいです」

異なる仕事を行き来する忙しい日々の中で、コンディションを整えるために大切にしているのは〝ルーティーン〟なのだそうです。

「ルーティーンがあるからこそ、ストレスが溜まったり、嫌なことがあったりしても本来の自分に戻ることができます。僕は筋トレや、自然と触れ合う時間、飼っている猫と遊んだりする時間などを大事にしているんです。筋トレは本当に好きで、昔はフィジーク(ボディビルのカテゴリ)の大会に出たりもしていましたが、今は自分のペースで鍛えることを優先しています。自分にとって 〝良いもの〟 を、自分のために習慣として残していくことが大事。庭師は重いものを持ち上げることがありますので、同業者でぎっくり腰になっちゃう人も多いんですが、その点、僕は筋トレに助けられているかもしれないですね」

村雨 辰剛さんイメージ

庭師と役者の
意外な共通点とは?

そんな村雨さんがくらしの中でわくわくするのはどんな瞬間なのでしょうか。

「もう、常にわくわくしていると思います。いつも自分を不慣れな状況に置いて、新しいことを探し求めているような感覚でしょうか。小さい頃から『海外に行きたい』『右も左も分からないところに飛び込みたい』と思っていて、今もそんなに考え方が変わっていないような気がします。刺激中毒かもしれないですけど(笑)」

不慣れな状況に身を置くことを厭わない精神があったからこそ、メディアの仕事にも積極的に挑戦してきました。実は、演技の仕事をする中で、役者と庭師の意外な共通点を見つけたのだとか。

「日本庭園の世界では、自然をよく観察して、その本質を庭の空間に取り入れ再表現することが求められます。役者も、いろんな人を観察して、表情や立ち居振る舞いを演技で再表現するものだと思うんです。役者の世界は本当に奥が深いです。自分がどうカメラに映っているのかを想定して、細やかな表情を表現しなければならないので。観察力を磨きたいですね」

村雨 辰剛さんイメージ
村雨 辰剛さんイメージ

奥深い日本の美、
これからも勉強したい

今後は、これまでしてきた様々な仕事の技術をさらに磨き、安定させていきたいという思いがあるそう。

「帰化した時点から、僕は日本人として日本人の精神を持って生きていくということを目指しています。でも『侘び寂び』など奥深い概念もあって、まだまだ日本の美学を勉強し、知識をつけていきたい。一方で、帰化後、なかなか捨てきれないスウェーデン人の感性や、逆に改めて気づけたスウェーデンの良さもあるので、うまく融合させることができたら、と思います」
この国に生まれ育った人間ですら、その魅力を忘れてしまいがちな伝統文化の世界。現代人は改めて村雨さんの視点から教えてもらうことが多そうです。

「日本庭園が民家からどんどん無くなるのは良くない!とか、上から目線で発信したいわけではないんです。僕は自分のエゴで、本当に好きなものをYouTube等でご紹介しています。夢中になって楽しんでいる僕の姿を見て、なんか面白そうだな、そういえば懐かしいな、と感じてくださればと。そこで、皆さんが良いな、と思ったものを自分の生活に取り入れるきっかけになったらうれしいですね」

村雨 辰剛さんイメージ
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