Interview
#02

〝ムツゴロウさん〟
動物と子どもたちの
心が通じる交流を
次の世代に繋いでいきたい

畑 正憲さんMASANORI HATA

動物研究家 小説家
エッセイスト 画家

1935年、福岡県生まれ。東京大学理学部で動物学を学び、アメーバの研究などを行う。卒業後は、映画製作・監督業、執筆などに携わる。北海道に移住し、「ムツゴロウ動物王国」を立ち上げた。人気テレビ番組「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」では、世界中の動物たちとの心温まる交流が反響を呼ぶ。現在は北海道・中標津町(なかしべつちょう)で、奥さまと愛犬・愛猫、馬たちと過ごしている。
http://mutsugoro-okoku.com/

ムツゴロウさんがテレビの中で動物たちと頬を寄せ合い、楽しそうに会話している様子は、日本中の子どもたちをとりこにしました。時には猛獣たちにも臆せず近づく姿に、いつもワクワク、ドキドキ。そんなムツゴロウさんに、動物との交流、今の暮らしについて伺いました。

大好きな中標津で
エネルギーを充電

世界中を駆け回っていたムツゴロウさんですが、今は北海道の中標津町(なかしべつちょう)に建てたログキャビンハウスで、奥さまや愛犬、愛猫と過ごす毎日。これまでとは違った、新しい日々を楽しんでいるようです。

「この自宅はね、フィンランドからヨーロッパアカマツの丸太を運んできて建てました。タバコの煙なんかも、煙がすーっと上に登っていく設計で、とても気に入っています。私がこの場所を選んだのは、第一には空港が近いこと。執筆をしていて、出来上がった原稿はいつも航空便で東京などの出版社に送っていました。空港までは車で少しですから、原稿が書けたらすぐに持っていけるわけです。第二は、馬がここの草を気に入ったからです。引越しを検討した時に、候補となった場所の草を紙袋に詰めて持ち帰り、馬に食べさせてみたんです。そしたら、中標津の草を一番喜んで食べていたので、ここに決めました。中標津はとても良いところで、人も風景も町も、すべてが好きです。ここから少し行くと川があって、向こう側へ渡ると一面が平野。彼方に山が見えて、その風景を見ていると胸が透くっていうか、すごく気持ちがいいんです」

畑 正憲さんイメージ
畑 正憲さんイメージ

自宅にある本をめくって
世界中を駆け巡る楽しみ

大好きな中標津の町で、ゆったりと季節の移ろいを感じているというムツゴロウさん。今までで一番、奥さまと過ごす時間が長いので、「厄介なのが家にいると思われているかな」と、笑いながら話してくれました。日々の生活では、本を読む時間が増えていると言います。

「うちには数え切れないくらい本がいっぱいあってね。たとえば、味の世界地図の本なんかを開くと、『あー、ここに行ったな、あそこに行ったな。ブラジルのサンパウロでは、坂を上がるとこういうところがあって...』なんて、思い出したりしながら読んでいると、その土地に行っているような感覚になってきます。東京の名店案内なんかを読んでいても、『この店で前菜はこれを食べたな、メインはこれで、一緒に行ったのはあの人だったなあ』と。いろいろ思い出してきて、楽しいですね。何回も、何回も、その場所を行き来しているようです」

書斎にある本棚は、天井まで一面に本が並び、その棚の前には並びきらない本が、たくさん積まれています。中には、ムツゴロウさんが執筆した本や、動物に関する本も数え切れないほどあります。その様子は、圧巻のひとこと。本好きなムツゴロウさんならではの光景です。そして、書斎にはムツゴロウさんが描いた絵も飾られています。

「毎年、銀座で個展を開いていますが、私自身が今まで全然行かれていなくてね。来年こそは、毎日会場に行って座っていようと思っています。そこで来てくれた人たちみんなと、お話しするのを楽しみにしています」

畑 正憲さんイメージ
畑 正憲さんイメージ

動物と心を通わせるのは
自然体でいることが大事

ムツゴロウさんと言えば、テレビの中で、いつも動物たちと楽しそうに向き合っている様子が印象に残っています。どうしたら動物たちと、あんなに仲良くできるのか、ずっと不思議に思っていました。

「テレビの仕事で、世界中の動物たちに会いに行きました。動物たちの前に立つ時は、身構えることなく自然体で接していましたね。『何も怖がることはないよ。君と僕は友だちなんだ』って具合にね。そうすると、自然に相手も気を許してくれる。でも、それは誰でもマネできることではないです。マネをして、ケガでもしたら大変。だから、動物たちと仲良くなる秘訣は秘密にしているんです」

時には、猛獣にも臆せず接近していったムツゴロウさん。怖さはなかったのでしょうか。

「現地で、私から離れたところにチーターがいたとしますよね。そこから彼らの生態についていくら言葉で説明をしても、テレビを観ているみなさんは実感が湧きませんよね。だから動物のそばまで行って心を通わせ、抱きしめて、チーターと友だちになるんです。そして実際に歯や尻尾などを見せながら特徴を説明すれば、臨場感が出ますから。みなさんにわかりやすく説明したい!ただその一心です」

おかげで、私たちはテレビでたくさんの動物を観て、知ることができ、動物の生態を詳しく学べたのでしょう。それは、ムツゴロウさんの功績と言って過言ではありません。

畑 正憲さんイメージ
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動物のすばらしさを、この先も
子どもたちに伝えていきたい

今までも、新しいことに果敢に挑戦していたムツゴロウさん。さらに、最近、娘さんとタッグを組んで、YouTubeに挑戦しているとか。

「娘に勧められてYouTubeを始めました。『ムツゴロウの656』。動物の話や、昔研究したアメーバの話なんかもしています。今後、イラストを描いて、いろいろな動物のことを説明したいなって考えていてね。ムツゴロウだけに、656回までは続けたいです。この歳になっても、まだまだ積極的に前へと進んでいきますよ」

そんなムツゴロウさんには、もうひとつ大きな夢があります。中標津の自宅敷地内にある「ムツ牧場」では、何代にも渡って大切に育ててきた馬たちが暮らしています。その馬たちに乗れる乗馬体験の機会を、子どもたちに与えてあげたかったのだそうです。

「私は、子どもたちに本当の意味での乗馬を教えたいんです。馬という大きな動物に真正面から向き合って、尊敬の心をもって背に乗せてもらう体験をすることは、素晴らしいことだと思っています。それを大人だけでなく、次の世代を担う子どもたちにも体験させてあげたい。うちの牧場では、親馬から子馬が生まれ、それを何代も繰り返してずっと大切に育ててきました。だから私たちと心が通じ合っていて、子どもたちが乗っても安心です。乗馬体験では、子どもに馬を1頭丸ごと預け、お互いが心を通じ合わせながら馬に乗ることができます。世界中を回ってきましたが、こういったスタイルで乗馬をやっているところは、見たことがありません。今、体のこともあって私は乗馬クラブに行けませんが、幸いにも娘夫婦が私の意思を継いで、子どもの乗馬体験を引き継いでくれています。ぜひ、次世代に動物のすばらしさを伝えることを、このまま続けていってもらいたいです」

子どもたちと動物を繋ぐという夢がまた一つ叶ったムツゴロウさん。エネルギーの充電後には、また新しい夢が生まれそうです。

畑 正憲さんイメージ
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