Interview
#65

文化が人生にもたらしてくれる
豊かさとは?
「バズる大使」が教えてくれたこと

ティムラズ・レジャバさんTEIMURAZ LEZHAVA

駐日ジョージア大使

1988年生まれ、ジョージアの首都トビリシ出身。4歳の頃に父親の仕事のため来日し、大学卒業までジョージア、日本、アメリカ、カナダで教育を受ける。早稲田大学国際教養学部卒業後、キッコーマン株式会社入社。2018年ジョージア外務省入省。2019年に在日ジョージア大使館臨時代理大使に就任し、2021年より特命全権大使。著書に『ジョージア大使のつぶや記』(教育評論社)、『大使が語るジョージア 観光・歴史・文化・グルメ』『日本再発見』(星海社新書)。

SNSの投稿が常に話題をさらっている駐日ジョージア大使、ティムラズ・レジャバさん。「バズる大使」という異名を持つ彼の投稿を通じて、初めてジョージアを知った、という人も多いのではないでしょうか。多文化を行き来してきたレジャバさんのお話からは、文化が人生にもたらしてくれる豊かさの本質が見えてきます。日本とジョージアの文化の魅力、自身のアイデンティティのこと、そして、日々のくらしの楽しさについて聞きました。

出来ることは全てやろう。
ハイパフォーマンスを意識

「私の一日は、何をするにもまずはコンディションを整えるところから始まります。頑張って運動する時間を見つけて、大嫌いなジョギングをしたり、大嫌いなジムでちょっと体を動かしたり泳いだり(笑)、あとは結構好きなヨガをやったり。瞑想もしますね」

大使の「典型的な一日」について聞いてみると、さっそくユーモアを交えて答えてくださいました。

「私は大使としてジョージアを代表する立場で仕事をしていますから、やっぱり国民の期待に応えなければならない。任期も限られているので、その中でできるだけジョージアをアピールして、最大限の結果を出したいんです。だからハイパフォーマンスであろうと心がけて過ごしています」

急に国からの連絡に対応したり、予想外の来賓があったりなど、大使という仕事に「典型的な一日」というのはあまりないそうです。

「土日にジョージアに関するイベントがあったら、『自分は休みなので』なんて言ったら勿体無いですしね。出来ることは全てやろうという気持ちです。休みは夏休みにジョージアに帰るなどしてまとまった形で取っています」

ティムラズ・レジャバさんイメージ

日本、ジョージア、
双方の文化が育んだ感性

取材に伺った日は、ちょうど、ジョージア出身の元大関・栃ノ心さんに関する大使のXの投稿が話題になっていました。「ジョージア大使館の福利厚生 今は大使館に務める元大関・栃ノ心関に大相撲中継の解説をしてもらえる。」という内容に、多くの人が「うらやましい」「贅沢」と反応。

日本人の心を掴む言葉の使い方や、投稿の切り口から、レジャバさんの日本文化や慣習への深い洞察が伺えます。

「他国の駐日大使もみんな日本語が上手いですし、中には日本文化の専門家という方だっていらっしゃいます。でも私のように、子どもの頃に友達の家に遊びに行って、そこでおばあちゃんにスイカを出してもらったり、みんなでスーパーファミコンをやったり、という経験がある人はいないですよね」

思春期の多感な時期に多文化を行き来したことで、アイデンティティの葛藤も抱えました。

「日本で、自分の周りにジョージア人なんて全然いないわけですから。時にはもやもやすることもありました。でも結局、逆にそれが自分の強みになったんです」

ティムラズ・レジャバさんイメージ

10代の頃に再認識した
母国への思い

レジャバさんの母国ジョージアは、黒海とカスピ海に挟まれ、ヨーロッパとアジアの文化が交錯する場所に位置しています。北部には標高5000mを超える大コーカサス山脈がそびえる自然豊かな国です。隣国のアルメニアに次いで世界で二番目にキリスト教を国教に定めた国であり、また、8000年の歴史を持つ「ワイン発祥の地」としても知られています。

「小学5年生から高校1年生までを日本で過ごしましたが、高校2年生の時、自分のアイデンティティを模索する中で、一時期ジョージアの高校に編入したことがありました。そこで、自分の言葉だと言える言葉、自分の仲間だと言える人たちの存在を強く感じました。ジョージアの料理、ワインの文化、文学、歌や踊り、それらを『自分のものだ』と言える幸せに気がついた時、心に豊かさがもたらされたのを覚えています」

改めて、ジョージアという国の魅力について聞いてみました。

「国土面積は日本の北海道ほど、人口は約370万人という小さな国ですが、多くの国に侵略されてきた厳しい歴史の中でも文化を守り続けてきた。言語も民族衣装も、一目で『ジョージアだ』とわかる個性があって、存在感を発揮していることが誇らしいです。各業界で活躍するジョージア人も多い。この前のオリンピックでは総合成績が24位という素晴らしい結果でした。日本においても、栃ノ心を含めてこれまで三人の力士を輩出しています」

ティムラズ・レジャバさんイメージ
ティムラズ・レジャバさんイメージ

「茶道」と「ワイン道」の
比較文化論

ジョージアへの誇りを感じるとともに、レジャバさんは改めて自分と「日本との繋がり」についても考えさせられたそう。

「これだけ日本との繋がりが深いジョージア人というのも少ないですから、自分の人生を考える上で、日本との関係は大切にしたいと思いました。だから大学を卒業後も、就職先に日本企業を選んだんです」

日本とジョージア、双方の文化を比較する視点にも興味深いものがありました。日本の「茶道」についてお話を伺ってみると・・・・

「正直、最初は茶道について、お茶を一杯飲むだけでこんなにお作法がたくさんあるなんて面倒だろうな、と思ってたんです。でも、ある時お茶会を体験したら、とにかく感銘を受けまして。まるで文化のコンサートです。掛け軸、お花、花瓶、お着物、お抹茶、お茶碗、和菓子、全てが融合して、『おもてなし』を体現する。お茶会に出る前と後では、気持ちが変わります」

そして、月刊茶道誌「淡光」に寄せた原稿にも書いているのが、ジョージアの「スプラ」という文化と、日本の「茶道」との比較です。

「スプラは、言うなれば『ワイン道』です。日本の茶道にはその会を取り仕切る亭主がいますが、スプラにも『タマダ』と呼ばれる進行役がいます。そして、その会のための特別な器があり、詩や歌も大事にされる、おもてなしの文化です。ただワインを飲むだけの宴会じゃないんですよ」

ティムラズ・レジャバさんイメージ

自然と一体となった
くらしを送ってみたい

国を代表する大使として、ジョージアという国の魅力だけでなく、日本の魅力にまで気づかせてくれるレジャバさん。まるで文化の伝道師とも言えますが、今、憧れているくらしの形があるとのこと。

「やはり私は、ジョージアという自然豊かな国で生まれた人間です。首都からも山が見え、少し離れるとブドウ畑が広がっています。だから自然と一体となった生活にすごく憧れます。日が昇ったら起きて、暗くなったら夕日を見て、自分の庭で一生懸命栽培した季節の食べ物を収穫して、味わって・・・・。今の時代は、そんなくらしを送りながらも、オンラインで仕事ができるのが良いですよね」

大使の任期を終えたら、その憧れのくらしを送るために計画を立てているのでしょうか?

「まだまだ、任期いっぱいまで今の仕事を頑張らないと。その後のことは、その後に考えようと思います(笑)。双方の国の関係において、新たな道を切り開くことができたらいいですね。日本もジョージアも、お互いに歴史を大切にする国ですし、価値観が合う部分が多いですから、これからも良いシナジーが生まれることを願っています」

ティムラズ・レジャバさんイメージ
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