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専門家「風景」をつくるガーデニング術

イギリスで訪ねた庭レポート vol.3 プリンセス・ダイアナ・メモリアル・ウォーク編

居場英則

今年2018年の5月、世界的に有名な日本人ガーデンデザイナー、石原和幸氏のサポートメンバーとして、

イギリス・ロンドンで開催されたチェルシー・フラワーショーに、石原さんの庭をつくりに行ってきました。

作庭期間の約2週間、その後、フラワーショー開催中の庭のメンテナンスもさせていただくことになって、

都合3週間ほど、イギリス・ロンドンに滞在していました。

その間、作庭の合間、そして週末の休みの時間を使って、ロンドン市内や近郊に点在する、

世界的に有名なガーデンをいくつも見て回ることができました。

自宅でバラの庭を作り始めて6年、新たな刺激とクリエーション(創造)の源を探しに行く旅でした。

こちらのディノスさんのブログコーナーで、僕が訪ねたロンドン近郊の12の庭をレポートさせていただくことに

なったこの企画、今回はその第3回。

ロンドン中心部に広がるハイド・パークとその周辺、ケンジントン・ガーデンなどをご紹介します。

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ハイド・パークは、ロンドン中心部、ウェストミンスター地区からケンジントン地区にかけて

広大な敷地を有する都市公園です。

チェルシー・フラワーショーが開催される5月末のイギリスは、日本でいうと4月末くらいの感じでしょうか?

チューリップや水仙などの球根植物の花が終わって、6月中旬頃にピークを迎えるバラの開花目前といった状態。

どの公園も花が少なく少し寂しい季節でしたが、代名詞の「霧のロンドン」と揶揄される天候が嘘のような

カラッと晴れ渡った日が続きました。

この日は、午前中のフラワーショー会場での庭造り作業を終え、地下鉄に乗ってすぐのハイド・パークへ、

散歩に出かけました。

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このハイド・パーク、公園内で最も古くから残る部分は、かつて貴族の荘園でした。

その後、イングランド国王・ヘンリー8世に買い上げられ、1851年、世界初の万国博覧会の会場となり、

公園内には「水晶宮(The Crystal Palace)」という鉄骨とガラスで作られた巨大な建物があったそうです。

今はその痕跡はなく、瑞々しい緑の芝生スペースが遠くまで広がっていました。

子供たちや家族連れ、オフィスワーカーの憩いの場となっています。

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このハイド・パーク、広さは約2.5平方キロメートル、実に75万坪。

ニューヨークのセントラル・パークとほぼ同じ規模を誇る、世界有数の都市公園となっています。

遠く彼方には高層ビル群が見え、ここが大都会・ロンドン市街の中心部とは思えないようなのどかな空間です。

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ハイド・パーク内には、高木も多数植えられ、それらが美しい並木の風景を作っています。

大きく枝を広げた木々に差し込む陽の光が、地面の芝生に美しい木陰を作ります。

まるで、苔の庭のようです。

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ハイド・パーク内には、何本もの放射状の道がデザインされています。

宿泊先で手に入れた現地の市街地図の中にも、その放射状の道が描かれていました。

地図に描かれた放射状に伸びる道が交差するポイントが、公園の中にいくつかあります。

最もたくさんの道が交差する場所はどんな風になっているのだろう?という、素朴な疑問が芽生え、

その場所に行ってみることにしました。

ここには、確か8本か9本の道が交差していたと思うのですが、その交差点はこんな風になっていました。

白と黒の玉砂利で描かれた、大樹をモチーフにした円形のペイヴメントがデザインされていました。

話のネタに、ハイド・パークに行かれることがあれば、是非、このポイントを探してみてください。

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広大な敷地のハイド・パークは、中央に広がるサーペンタイン・レイクと呼ばれる人口湖(池)により、

東地区と西地区に分かれています。

この池には多くの野鳥が遊び、市民や観光客がボート遊びを楽しんでいました。

そして、このサーペンタイン・レイクの畔(ほとり)にあるのが、今回、一番見たかったこの施設です。

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「ダイアナ・プリンセス・オブ・ウェールズ・メモリアル・ファウンテン」。

1997年、不慮の交通事故で亡くなられたダイアナ元妃の記念碑として作られた噴水です。

アメリカ人ランドスケープアーキテクトのキャサリン・グスタフソン女史と、

イギリス人のニール・ペーター氏によってデザインされたものです。

この噴水は、50m×80mの楕円形で、緩やかな斜面に位置していて、最も高い位置から流れ出た水は、

二手に分かれ、やがて、最下点でひとつにつながるという、シンプルでありながら斬新なデザイン。

「ダイアナ元妃の波乱万丈な人生を、水の流れで表現する」というコンセプトの記念碑なのです。

一般的な記念碑というと、偉人の人物像やその人の功績が記された石碑などが頭に思い浮かびますが、

ここでは、「水の流れ」という抽象的なものでデザインされているところが、知的で興味深いです。

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では、「ダイアナ・プリンセス・オブ・ウェールズ・メモリアル・ファウンテン」を

ぐるっと一周回ってみましょう。

こちらの写真が、最も高い位置。

手前中央部に湧き出した水が、緩やかな勾配の水路を左右に分かれ、流れていきます。

サークル状の水路の内側には、美しい芝生の広場が広がっています。

奥にはサーペンタイン・レイクが見え、緑豊かな木々へと、美しい風景がつながっていきます。

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まず、左回りに半周してみましょう。

最頂部から流れ出した水は、水路を左へと流れ下ります。

浅い水路には、凹凸の突起がデザインされ、突起に当たった水が白く泡立ち、荒々しい表情を見せます。

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水は、途中V字型の渓谷で急流となり、やがて穏やかな川幅の広い部分へと到達します。

水路には自由に入ることができ、子供が靴を脱いで腰かけ、冷たい水で涼をとっています。

ここが記念碑であることを忘れさせるデザインです。

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そして、流れは再び荒々しい滝に差し掛かり、激しく水しぶきを上げて流れていきます。

まるで、ダイアナ元妃の人生のように。

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そして、最後には川幅の広い、穏やかな流れとなって終焉を迎えます。

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再び、最頂部へ戻ってきました。

今度は、右回りに半周、水の流れを下ってみます。

いきなり、段差のある滝が数段、待ち構えています。

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下流側から見た数段の滝。

落差を得た水の流れは、一気にスピードを増していきます。

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勢いのついた水は、バンクした(傾いた)水路の側面を溢れんばかりに打ち付け、さらに加速します。

このモニュメントを設計したキャサリン・グスタフソンとニール・ペーターは、

クレイ(土の)模型を基に、3次元モデリング、コンピューターによる解析と調整を重ね、

多くの技術者とともに、この水路を作り上げたそうです。

どこまでも白い花崗岩を、3Dモデリングで研磨し、作り出された独特の美しい造形美。

写真では伝えきれない、実物を見て初めて分かる感動が、そこにありました。

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そして、最後はまた、この穏やかな水面に辿り着きます。

水の流れが絶え間なくつながるこの美しい水の造形。

メビウスの輪のようでもあり、エッシャーのだまし絵で描かれた循環する水路の絵のようにも思えます。

ここを訪れる人が、この水盤がダイアナ元妃を偲ぶモニュメントだということにすら気づかないほど、

さりげなくロンドンの日常の中に溶け込み、これからもずっと愛される特別な空間になっているように思いました。

デザイナーのグスタフソンは、

「この噴水は、ダイアナ元妃、彼女に相応しい記念物となることを何よりも強く意識し、

かつ、彼女が素晴らしい人間であったことを表現するようなものとしたかった。」と語っています。

「ダイアナ・プリンセス・オブ・ウェールズ・メモリアル・ファウンテン」は、

ダイアナ元妃の波乱万丈な人生を彷彿とさせるような、絶え間ない水の流れの美しさに心癒される空間です。

ロンドンの都市の新しい癒しの空間として、是非、訪れていただきたいと思う場所です。


さて、「ダイアナ・プリンセス・オブ・ウェールズ・メモリアル・ファウンテン」を後にして、

ハイド・パークの西、ケンジントン・ガーデンズに向かいます。

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「ダイアナ・プリンセス・オブ・ウェールズ・メモリアル・ファウンテン」のすぐ近くで見かけたのが、

こちらの風景。

石と鏡面パネルを使った、アートです。

石の横に黒い犬がいて、その姿が鏡面パネルに映り込んでいると思うのですが、

一番手前、画面の左側にも、よく似た黒い犬が・・・。

これは、偶然なのか、それともアートなのか?

面白い仕掛けに、思わず頬が緩みます。

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そして、ケンジントン宮殿に向かう道すがら、左側に見えてきたのがこちらの建物。

ロイヤル・アルバート・ホール。

8000人規模の収容人数を誇る、ロンドン最高峰のコンサートホールで、バレーやオペラ、クラッシックから

ロックまで、様々なアーティストたちに彩られてきた芸術の殿堂。

以前、ここで行われたライブの様子をDVDで見たことがあって、是非訪れてみたいと思っていました。

ハイド・パーク側から見える建物正面は、建物の改修中で、残念ながら足場が掛かっていました。

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側面に回り込むと、美しい外観を見ることができました。

コロッセウムのような円形の外観の頭頂部には、「芸術と科学の勝利」を描いた巨大なテラコッタが

貼られています。

時間があれば内部見学のツアーに参加してみたかったのですが、今回は外からしか見ることができませんでした。

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再びハイド・パークの中を西へと進みます。

この辺りは、ケンジントン・ガーデンズと呼ばれるエリアで、ケンジントン宮殿も近いことから、

多くの観光客の方が、公園内を散策されています。

こちらは、その一角で見つけたカフェテラス。

のぼりはおろか、何の看板すら出ていないシンプルなデザイン。

閉店時には、折り畳みの扉がカウンターを隠す設計となっていて、とてもオシャレ。

さりげなく、公園の風景に溶け込んでいます。

日本ではこうはならないでしょう。

美しい庭園や建造物のすぐ横でも、無粋なのぼりや看板ばかりが目立っていることでしょう。

都市景観を大切にする、このような価値観や美意識を、もっと日本人も学ぶべきではないかと思いました。

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そして辿り着いたハイド・パークの西の端、ケンジントン宮殿です。

現在、ウィリアム王子ご一家が暮らされる宮殿は、かつてその母、ダイアナ元妃とチャールズ皇太子が

住まわれていた宮殿でもあります。

一部、内部も公開されているのですが、こちらも時間がなく、外からだけ見学しました。

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ケンジントン宮殿への見学者の出入り口前には、緩やかな斜面を使ってデザインされたメイズがあります。

ちょうど人の背の高さに刈り込まれた植物の中に、ジグザグの道が作られています。

道を歩いていると、今どこにいるのか分からなくなりますが、上から見下ろすことができるようになっています。

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こちらも、ケンジントン宮殿のすぐ横にある、「プリンセス・ダイアナ・メモリアル・ガーデン」。

サンクンガーデン、いわゆる「沈下式庭園」になっていて、中央に行くほど低く作られています。

中央には、噴水を配した池が作られていて、その縁に、テラコッタ鉢に植えられたバラが見えます。

その鉢には、ちらほらと白い花が咲き始めているのが見えます。

また池の周りには、シルバーリーフの宿根草が植えられ、赤い花を挟んでその外側にも白い花が咲いています。

ダイアナ元妃が愛した白い花が咲き乱れるホワイトガーデンとなっているようです。

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細長い四角のサンクンガーデンを、長辺側から見たところです。

緩やかに中央の池に向かって階段を降りていくようなデザインになっています。

ここに白い花が咲き乱れる様子を、是非いつかみてみたいものです。

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ひとつ上のサンクンガーデンを横から見た写真は、このアーチの側面に開け放たれた「窓」のようなところから

見える風景です。

つる性の植物がこのアーチに誘引され、薄暗い空間は、まさに「緑のトンネル」です。

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緑のトンネルのサンクンガーデンとは反対側の「窓」から見える、ケンジントン・ガーデンズの風景。

このあたりは、「プリンセス・ダイアナ・メモリアル・ウォーク」と呼ばれ、

ダイアナ元妃が生前、好んで散歩した道なのです。

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最後に、ダイアナ元妃が暮らしたケンジントン宮殿の門。

以前は、この門にダイアナ妃を偲んで多くの手紙や花が手向けられていたそうですが、今はありません。

それでも、まだまだたくさんの人が彼女を慕い、この場所を訪れているそうです。


イギリスで訪ねた庭を巡るレポート・第3弾。

ハイド・パークからケンジントン宮殿まで、ダイアナ元妃が愛した散歩道、

「プリンセス・ダイアナ・メモリアル・ウォーク」を辿ってみました。

不慮の事故(1997年8月)で亡くなってから、20年以上経ちますが、

いまだに世界中の人々から愛されているダイアナ元妃。

今回は、そんなダイアナ元妃を偲ぶことができる数々の場所を紹介しました。

ロンドン中心部からすぐの場所ですので、是非、「プリンセス・ダイアナ・メモリアル・ウォーク」を

歩いてみて下さい。


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居場英則

『進化する庭、変わる庭』がテーマ。本業は街づくりコンサルタント、一級建築士、一級造園施工管理技士、登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。土面の殆どない庭で、現在約120種類のバラと、紫陽花、クレマチス、クリスマスローズ、チューリップ、芍薬等を育成中。僕が自身の庭を創り変える過程で気づいたこと。それは、植物の持つデザイン性と無限の可能。そして、都市部の限定的な庭でも、立体的な空間使用、多彩な色遣い、四季の植栽の工夫で、『風景をデザインできる』ということ。個々の庭を変えることで、街の風景も変えられるはず…。『庭を変え、街の風景を変えること』が僕の人生の目標、ライフワーク。ーー庭を変えていくことで人生も変えていくchange my garden/change my lifeーー

個人ブログChange My Garden

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