バラ園を巡り、実際に幾多の鉢バラを育成した中で、僕の個人的に惹かれてやまないバラをご紹介します。
「どんな色のバラが好きですか?」
バラ好きの人が集まる講演会などでそう問いかけると、女性は「かわいらしいピンク」、
男性は「情熱的な赤色のバラ」と答える方が多いらしいです。
僕の好みは「地味派手」。
今風の言葉で言うなら、『ゴージャス・シック』
どこか翳りや奥行きのある深い色合い、大人びた風合いでありながら、花容が整っていて、
華やいだ雰囲気のあるバラが、僕は好きなのです。
■ ヴァンテロ
まずはじめに名前を挙げるのは、まさにそんなゴージャス・シックなバラ、『ヴァンテロ』。
2008年にフランスギヨー社から発表されたバラです。
このバラは花弁がフリル状に波打ち、幾重にも重なる独特の非常にゴージャスな花型ですが、
決して女性的でなく、「いなせ」というか「粋なバラ」なのです。
ワインレッドがかった花色には深みがありどこか重厚な雰囲気が漂うクラシックなバラ。
香りもダマスク香にレモンやグレープフルーツ、アプリコット、ピーチが混じります。
現代バラながら、どこかオールドローズのような華やかさを併せ持つバラ。
少々気難しい気質で、中々木が充実しないのですがお気にいりのバラなので、
是非満開で咲かせてみたいと、絶賛育成中なのです。
■ べルベティ・トワイライト
次に紹介するのはやはりゴージャス・シックなバラ、『ベルベティ・トワイライト』。
ガーデンデザイナー吉谷桂子さんに捧げるバラとして、日本の育種家・河合伸志
さんが作出、吉谷さん御自身が名づけられました。
ワインのような深い赤や紫といった色合いのバラが好きなのですが、このバラは
咲き始めのパープル系のワイン色から次第にブルーイングし、深みのある妖艶な
紫へと花色が変化するのです。
やはり、フリルがかった波状弁がギュウギュウに詰まった整った美しい花型。
デザインの仕事をする僕は、整った容姿でアーティスティックな造形の花に惹かれます。
横浜イングリッシュガーデンのディレクターでもある河合さんは、
とても色彩感覚に優れた方で、その色合わせは庭づくりにおいて、
非常に参考になるのですが、河合さんの優れた色彩感覚が如実に表れた作品であると
感じています。
香りは、やはりフレッシュで強いダマスク香です。
■ アイズ・フォー・ユー
ゴージャスな赤系バラをふたつ続けて紹介したところで、今度はちょっと趣の違うバラを。
『アイズ・フォー・ユー』。
I only have eyes for youの意味が「あなたしか見えない」。
とてもロマンチックなこのバラの名前は、恐らくこのバラの中央に鮮明に入る赤紫のブロッチという
眼のような模様に由来するかと思われます。
ひらひらとした丸弁平咲きで、一輪ずつは決して派手な花容でないのですが、蕾はクリームイエロー、
花は薄桃色からライラックがかった色へと変化するので、一株でいろんな色のグラデーションが楽しめるのです。
そこに入る鮮やかな赤紫と金色の蕊のバランスが非常に美しく印象的なバラであります。
更にこのバラの良いところは樹勢が強く樹形が美しいこと。
僕の庭では一番大きなブッシュ仕立てのバラで、横に広がったり、俯くことがありません。
一重で暑さには弱いので、開花後は西日の当たらない場所での鑑賞がオススメです。
ハッキリしたスパイス香でカレーのような香りがするので、喜ばれるバラです。
さて、続いてはイングリッシュローズでオススメのバラを4つ紹介しましょう。
世界各国のローズナーセリーが作品を発表してますが、どこが好きと聞かれれば、やはりこの英国、
デビッド・オースチンのバラ。
僕の庭では、40品種を超えるイングリッシュローズを育てています。
■ ジュード・ジ・オブスキュア
その中で先ず一番に紹介するのは『ジュード・ジ・オブスキュア』。
イングリッシュローズは元々が「返り咲くオールドローズ」というコンセプトで創られているので、
オールドローズピンクの品種が多いのですが、このバラは少し異質です。
外側は淡いクリームイエロー、内側はベージュがかったバフイエロー、コロンとまん丸の深いカップ咲きで、
起毛してるような弁質。
このバラを『フリースを着た卵』と称した専門家がいたそうですが、まさしくそのような個性的な花容です。
徐々に外側の花弁が開いて、ゴブレット型の大輪で咲くのですが、恐らくイングリッシュローズイチと言える
素晴らしいフルーツの香り。
強烈な檸檬などのシトラス香にグァバや白ワインが混じると言われ、一輪で庭中に香ります。
ご婦人の多いバラのイベントでたまにいる男性陣に好きなバラを尋ねると、
必ずこの「ジュード」の名前が挙がるとか...。
バラ園などで見かけられたら是非香りを嗅いでみてくださいね。
■ ジュビリー・セレブレーション
イングリッシュローズ二番手は、『ジュビリー・セレブレーション』。
イングリッシュローズの中でも皇室や王妃に捧げられたバラはスペックが高く、育てやすいといいます。
このバラはエリザベス女王の即位50周年を記念してのバラですが、女王陛下を祝するのに相応しく、
クリアーなピンクの大輪の花弁の裏側がゴールドに輝きます。
このバラも香りが強く、咲き始めは、はっきりしたレモン、次第にラズベリーが混じるフルーツ香。
樹勢が強く、株一面に花が咲くのも素晴らしいのですが、唯一の欠点は、花首が細く大輪の重さで俯いて咲くこと。
カリを施して強い枝を育てるか、高い台などに載せて鑑賞するといいかもしれません。
今年の冬は、イングリッシュローズは敢えて高めの樹高になるよう剪定しました。
日陰で徒長しがちの僕の庭では、コンパクトにまとめるより大きな樹形にして、
なるべく日光が当たるようにした方がいいという配慮からです。
同じイングリッシュローズでも、品種によって成育の特性が違うため、バラの性質を見極めながら、
個々のバラに適した管理を心掛けています。
■ ラジオ・タイムス
3つ目に紹介するイングリッシュローズは、『ラジオ・タイムス』。
実はこのバラはもう日本では流通していない古いバラです。
イングリッシュローズは、毎年4品種程新しく発表されます。
本国では人気があっても、日本では大きくなり過ぎたり、暑さに耐えられないようなバラは、
カタログから消えていきます。
いわゆる「カタ落ち」というヤツです。
プリンス、シャリファアスマ、パットオースチン、ウィズリーなど、
僕が気に入ってるバラの中でも沢山の品種がもう入手できなくなりつつあります。
このバラは本の表紙で見かけて、ずっと欲しかったのですがやはり入手出来ず、
イングリッシュローズ好きの友人の庭に植わっていたのを、昨年譲り受けたのです。
クラシックなオールドローズを思わせる綺麗なロゼット咲きで、
ギュウギュウに花弁が詰まり、少しコーラルがかった嫌味のないピンクです。
強いオールドローズの香り。
花と黄緑がかった葉のバランス、樹の佇まいが美しいバラなので、
是非大きなシュラブにして壁を飾ってみたいと育成中です。
古いイングリッシュローズは少々耐病性に欠けたり、気難しくても、
是非育ててみたいと思うような魅力のあるバラが多いと感じています。
■ ザ・プリンス
最後に紹介するイングリッシュローズは『ザ・プリンス』。
横に広がったり自然樹形で咲くものが多いイングリッシュローズの中では珍しく、
ハイブリッド・ティーのようにスクッと立ち上がり、姿勢良く大輪の花を咲かせるバラです。
色は紫がかった色からブラックを帯びた赤。
整ったカップ咲きから開くにつれロゼットへと移行しますが、黒みを帯びた色に
金色の蕊が美しい、まさに僕好みの『ゴージャス・シック』なバラです。
分厚いベルベット状の花弁で独特の雰囲気のあるシックなバラ。
香りはオールドローズ香。
このバラも日本のカタログからは落ちてしまってます。暑過ぎと寒過ぎに弱い、
枝が充実しにくいというような説もあり少々デリケートですが、
もう入手しにくいバラなので大切に育てています。
さて、最後に比較的新しいバラを3つ紹介しましょう。
日本の育種家、滋賀のRose Farm KEIJIの國枝啓司さんの作出された
『和バラ』をご存知ですか?
和の美意識を彷彿とさせる色合いや優しい花姿で、名前もそれぞれ和のイメージで
ネーミングされています。
切りバラとして作られた和バラが、庭でも長く咲き、切っても楽しめる
園芸品種として販売されたのが『F&Gローズ』です。
昨年友人から譲り受けたことがきっかけで、僕の庭にも和バラが増えましたが、
中でもオススメの3品種を紹介したいと思います。
■ あおい
先ずひとつめは、『あおい』。
僕が元々注目していた品種ですが、その理由はこの独特のシックな色合い。
このバラには、ラベンダーピノキオという小豆色のバラの血が入っているそうで、
モーヴピンクやラベンダー色の特徴のある花弁の底にココア色が混じるのです。
他のバラにはない雅な雰囲気で、スプレー咲きでブーケ状に咲くのも美しい。
F&Gシリーズで一番のお気に入りのバラです。
夕焼けのようななんとも言えないこのバラの色を是非堪能していただきたいです。
香りは殆どないバラですが、それでも価値があると思えるバラで花期も非常に長く、
花型を維持したまま咲き続けます。
■ かおりかざり
2つ目に挙げるのは、『かおりかざり』。
とてもキャッチーなネーミングですが、ハーブやフルーツの混じった
爽やかな香りのするバラです。
当初余り注目してなかったバラですが、友人から譲り受けて
庭で実際に咲く姿を見たときにグンと評価を挙げたバラです。
花型が抜群に美しいのです。
F&Gシリーズはわりと可愛らしく楚々とした風合いのバラが多く、
『ゴージャス・シック』好きの僕の食指が余り伸びずにいたのですが、
このバラはちょっとイングリッシュローズに近い華やかさがあります。
整った花型のうえ、色が個性的。咲き始めはイングリッシュローズの
サマーソングに近いような鮮やかなオレンジ。
咲き進むとタラコのようなクリアーなコーラルピンクへと変化します。
あおいが夕焼け色のバラなら、かおりかざりは朝焼け色のバラ。
ピンクの多いバラ庭でアクセントになってくれること請け合いで、気に入ってます。
■ 杏
最後になりましたが、比較的新しいバラで、『杏』。
このバラはキュッと先端が尖った独特の愛らしい花型。
最初はパットオースチンに似た綺麗なロゼットオレンジで花開き、
次第にサーモンオレンジからアプリコット色に退色してゆく。
濁りのない緑の葉とこの花色が白壁によく映え、ブーケ咲きでボリュームのある
綺麗なブッシュ樹形。
F&Gローズの中では樹勢が強く育てやすいバラで、オススメの品種です。
如何でしたでしょうか?、僕のおススメの鉢バラたち。
バラシーズン目前の今、皆さんのお気に入りの鉢バラを美しく育てて下さいね。
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