2021.11.17 / 唐招提寺・薬草園プロジェクト
11月に入り、紅葉が美しい季節になりました。
さて、今回は、以前にこのディノスさんのブログ記事の中でもご紹介した、今僕が関わらせていただいている
ガーデンプロジェクトについて、その続報をご紹介したいと思います。
僕の住む街、古都・奈良。
奈良時代から1300年以上も続く街には、東大寺や興福寺、春日大社など、有名な寺社仏閣が多数残っています。
その中で、南都六宗のひとつである律宗の総本山・唐招提寺は、苦難の末、中国から来日を果たされた鑑真和上が、
戒律を学ぶ道場として開かれた寺院です。
1998年には、古都奈良の文化財の一部として、ユネスコより世界遺産にも登録されています。
その唐招提寺とご縁があって、現在、開祖・鑑真和上ゆかりの「薬草園」を復興するというプロジェクトに、
ガーデンデザイナーとして、関わらせていただいています。
※ 唐招提寺・薬草園プロジェクトについては、バックナンバー記事(第100回)をご覧ください。→ ※
写真は、入口にあたる南大門から金堂を真正面に見たアングルで、参道の両脇のモミジが赤く染まり始めています。
唐招提寺は、国宝の金堂はじめ多くの文化財があり、境内には創建当時の遺構などの埋蔵文化財の可能性もあって、
薬草園の再興にあたっては、奈良市、奈良県、国(文化庁)など、多くの関連部署との協議・許認可が必要で、
その実現には多くの手続きや調整が必要となります。
昨年は、薬草園再興にあたっての学術的な裏付けのため、専門家委員会が数度に渡って開催され、
計画案も当初提案したプランから、多少の修正を加えながら、奈良市、奈良県との協議を経て、
ようやく今年(2021年)8月、国(文化庁)の許可が下り、この秋から工事着工することが可能となりました。
唐招提寺・薬草園のガーデンデザインの方向性として「風景をつくる」ということに加え、
「香りの薬草園」という切り口をご提案しています。
上のプレゼンは、2018年環境省主催の「みどり香る」まちづくり企画コンテストに応募した時のものですが、
第2席にあたる「におい・香り環境協会」賞をいただきました。
また、今年令和3年度(2021年)、公益財団法人・都市緑化機構が主催する「第32回 緑の環境プラン大賞」
(シンボルガーデン部門)に応募したところ、「緑化大賞」を受賞することができました。
2つの大きな賞をいただき、唐招提寺・薬草園プロジェクトの実現に向け、弾みが付きました。
こちらが、唐招提寺・薬草園の計画地です。
現状は、まだ何もない広場のような空間ですが、この場所に、開祖・鑑真和上ゆかりの薬草園を整備していきます。
まずは、計画地の地面の中に、奈良時代の遺構面がどのくらいの深さにあるのかを確認する作業が行われました。
今回の薬草園整備計画の中では、「薬草」だけでなく、「薬木」も植栽することになっており、
薬木の中には高さ10mを越えるような高木も含まれていて、それらの高木類の根が地中の遺構面を傷つけないよう
設計上の配慮が必要となります。
高木植栽エリアについては、当初計画からマイナーチェンジを行い、盛り土を行い、高木の根系の広がる範囲を
遺構面から離隔距離を取ることで解決しました。
地面を1mほど掘り下げて、土中の状況を確認しました。
高木の根が広がる深さには、特に重要なものは見つからず、計画通りの施工が可能となりました。
薬草園の整備計画の中に、一部、風景庭園的なエリアを作ろうと考えていまして、
そのエリアに設置する「景石」を知り合いの方から譲り受けました。
京都の「加茂石」と言われる名石のひとつで、赤い岩肌が特徴です。
鑑真和上坐像が、赤い衣をまとっておられることから、その衣装の色に近いこの「加茂の赤石」を
庭園のひとつのシンボルとしてデザインしたいと考えています。
写真では、埃をかぶったように白く見えますが、雨に当たると、岩肌が濃い赤色に染まります。
続いて、薬草園のプランを実際の現場に写し取る「縄張り」が行われました。
「縄張り」といっても、実際には白線を引いて、薬草園の外形線を明示し、園内の園路や高木花壇の大きさなどを
実物大で確認する作業です。
こちらは、薬草園のシンボルツリー、瓊花(ケイカ)という高木を植栽する、楕円形の花壇の配置場所になります。
こちらが、唐招提寺境内の御影堂の近くで育てられている「瓊花(ケイカ)」です。
1963年、鑑真和上没後1200年事業として中国仏教協会から贈られてきた、和上の故郷・江蘇省揚州市の名花です。
門外不出の瓊花(ケイカ)は、日本国内では、唐招提寺と皇居、岐阜の神薬才花苑など、
数カ所にしかないと言われています。
紫陽花の花に似た瓊花(ケイカ)は、スイカズラ科の半常緑の低木で、花には微かな甘い香りがします。
今回の薬草園計画では、後述しますが、「香り」をテーマにしていますので、
この香りのある瓊花(ケイカ)を薬草園のシンボルツリーとして配置します。
薬草園の南から北に向かって伸びる、主要な園路の位置を白線で示しています。
この園路は、薬草園の北側にある「戒壇」と呼ばれる、出家者が僧侶となるための受戒の儀式を行う場所に
繋がります。
薬草園の重要な園路は、この戒壇の出入り口の軸線に呼応するように計画しています。
戒壇院の建物は、江戸時代末期に焼失して以来、再建されず、現在は三段の石壇のみが残っています。
薬草園が完成した後は、受戒の儀式が行われる際、香りの薬草園の中を真っすぐ南から北へと通り抜け
戒壇にアプローチするというドラマチックな演出が可能となります。
途中、向かって右に伸びる園路がシンボルツリーの瓊花(ケイカ)方向へ向かう、第二の園路になります。
この2つの園路が交差する場所には、高さ3mの灯篭が設置される予定です。
こちらは、灯篭が建つ場所から東方向、シンボルツリーの瓊花(ケイカ)が植栽される方向を見たアングルです。
奥の森のような植栽帯が、シンボルツリーの瓊花(ケイカ)の背景に広がり、借景となります。
こちらは、白線引きされた、シンボルツリーの瓊花(ケイカ)を植栽する花壇の位置になります。
計画図面では細長い楕円形になっていますが、かなり正円に近い状態ですので、再度、ラインを引き直します。
白線が当初描かれていた正円に近い楕円形。
実際のプラン図に近い細長い楕円形を地面にライン引きするために、楕円の焦点を決め、
ひもを使ってラインを引いているところです。
これまで机上で検討していた配置図が、実際の地面に書き写され、実物大の大きさで、
周囲の風景とも連動する形で反映されると、より実感が湧いてきます。
一方、唐招提寺・薬草園に植栽する薬草や薬木は、薬草園の再興を支援してくださっている方が中心となって、
岐阜県関市の山中にある「神薬才花苑」にて、唐招提寺から疎開させた開祖・鑑真和上ゆかりの薬草を守り、
育ててくださっています。
今年の夏、こちらにうかがって、唐招提寺・薬草園に移植する薬木の選定を行いました。
こちらが、薬草園のシンボルツリーになる瓊花(ケイカ)です。
何本か植栽されている中で、最も大きく樹形の美しい木を選ばせていただきました。
瓊花(ケイカ)以外にも、何本もの高木の薬木を、急斜面の山中で選びました。
こちらは、谷筋に繁茂している薬木の甘茶(アマチャ)です。
紫陽花の一種ですが、煎じてお茶にすることができますが、薬草園の中でも群生させて、
風景を構成する重要な薬木として位置づけています。
薬草園の本格的な整備工事は、この秋から随時行っていきますが、
取り急ぎ、高木の移植を、この秋の適期に行うため、唐招提寺側での受け入れ態勢を整えました。
薬草園に隣接する場所に、岐阜より高木を受け入れる仮植え場としての「圃場」を整備していただきました。
10月末、いよいよ岐阜より高木類がトラックに乗って唐招提寺へと運ばれてきました。
第一便で届いたのが、薬草園のシンボルツリーの瓊花(ケイカ)です。
トラックからクレーンで荷下ろしされて、圃場に仮植えされました。
高さ5m近い、なかなかの大物です。
瓊花(ケイカ)以外にも、モクゲンジ、サンシュユなどの薬木も、次々に仮植えされました。
第二便で運びこまれた薬木も、ユンボを使って荷下ろしされ、圃場に仮植えされていきます。
こちらは、二ホンニッケイという薬木。
数人がかりで圃場に仮植えされているところです。
今後は、これらの高木の薬木をまず最初に植栽し、薬草園の骨格を作っていくことになります。
こちらは、甘茶。
群生させて、花が咲いた時に美しい風景をつくれるよう、薬草園内に配置していきます。
とりあえずは、薬草園の花壇や園路が整備されるまで、こちらの圃場で待機することになります。
今回、岐阜より持ち込まれた薬木類は、年明けの1月から準備、薬草園に植栽していく予定となっています。
現在は、ここまで。
今後、実際に出来上がっていく薬草園の様子は、また追ってこちらでもご紹介できればと思っています。
薬草園全体が完成するには数年の年月が掛かる見込みですが、
来春には、薬草園の一部を公開できるよう準備を進めています。
乞うご期待ください。
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