2019.8. 7 / イギリスで訪ねた庭レポート
昨年の2018年の5月、世界的に有名な日本人ガーデンデザイナー、石原和幸氏のサポートメンバーとして、
イギリス・ロンドンで開催されたチェルシー・フラワーショーに、石原さんの庭をつくりに行ってきました。
早いもので、それから1年が経ちました。
昨年のチェルシーフラワーショーで、石原さんのコンテストガーデンづくりに参加させていただき、
フラワーショー開催中の庭のメンテナンスもさせていただくことになって、都合3週間ほどイギリス・ロンドンに
滞在することができ、その間、ロンドン市内や近郊に点在する世界的に有名なガーデンをいくつも見て回りました。
こちらのディノスさんのコーナーで、僕が訪ねたロンドン近郊の庭をレポートさせていただくことなった
この企画、今回はその第12回目、「グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズ」編です。
イギリス滞在も残すところあと僅かになった最後の週末、当時ロンドンに単身赴任していた高校時代の同級生が、
車を出してくれ、ロンドンの南東部に位置する名庭園に連れて行ってくれることになりました。
午前中は、夢にまでみた「イギリスの宝石」と呼ばれるガーデン、シシング・ハースト・カースル・ガーデンを、
そして、午後から2つのガーデンを巡るという強行軍で、次のガーデンへと向かいました。
午後イチで訪問問したのは、「グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズ」。
イギリスにあるガーデンの中でも、常に人気ベスト5に名前が挙がる名園です。
3つ目に訪問する次のガーデンがかなりの遠方になるため、グレート・ディクスターに滞在できる時間は
かなり限られていたのですが、駆け足でその名庭園を散策しました。
「グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズ」の公式HPがありますので、以下、そちらを記載しておきます。
※ 公式HPは、こちら → https://www.greatdixter.co.uk/
この公式HPの中に、グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズのMAPが掲載されていますので、
そちらを画面で開いていただきながら、以下の写真を見ていただけると、
ガーデンの中を巡っている道順や位置関係などが分かりやすいかなと思います。
※ MAPは、こちら → https://www.greatdixter.co.uk/plan-your-visit/map/
では、早速、ガーデンを巡って行きましょう。
チケットオフィスのあるエントランスを抜けると、この景色が広がります。
「Front Meadow」と呼ばれるエリアで、ワイルドフラワーが咲く長いアプローチの正面に、
チューダー朝様式の古い建物(マナーハウス)が見えています。
ここで、少しグレート・ディクスターについて、簡単に紹介しておきましょう。
グレート・ディクスターは、イギリス・イーストサセックス州にある、
園芸家、クリストファー・ロイド氏のプライベート・ハウス&ガーデンです。
クリストファー・ロイド氏は、20 世紀の園芸界に多大な影響を及ぼした園芸家であり、
ガーデンライターで、彼の私庭である、このグレート・ディクスターを公開し、
ナーサリーを経営するかたわら、ガーデンに関する執筆活動を始め、
イギリスにおける園芸の発展に貢献しました。
マナーハウスのエントランス。
内部を見学できるツアーも用意されていたのですが、次のガーデンへ向かう
時間も迫っていたので、内部の見学はせず、ガーデンを巡ることにました。
ちなみに、建物は3つの棟で構成されており、最も古い部分は15世紀中期のもので、
その後、著名な建築家、エドウィン・ラッチェンスによって改装されています。
ラッチェンスは、イングリッシュガーデンの生みの親とも言われる女性園芸家、
ガートルード・ジーキルの仕事上のパートナーでもあったそうです。
ジーキルは、このグレート・ディクスターの植栽には直接的に関わっていませんが、
ロイド氏は、ジーキルから
こちらは、マナーハウスのエントランス脇に置かれた鉢植えのディスプレー。
何種類もの宿根草のギボウシやその他、葉物の植物が、小さなテラコッタ鉢に一鉢一品種で植えられています。
これまで見てきた他のイギリスの名庭園と呼ばれるガーデンでは、あまり見かけなかった手法ですが、
ここグレート・ディクスターでは多用され、後程、別の場所でも、同様のディスプレーを見ることができます。
こちらは、マナーハウスのエントランスから右手方向(東側)に広がるガーデンエリア。
「Peacock Garden」と呼ばれるガーデンで、イチイの木を刈り込んで作られたトピアリー群が林立する中に
細い小径が通してあります。
「Peacock Garden」の特徴的なトピアリーを別のアングルから見てみました。
緩やかなカーブを描く四角錐の台の上に、ピーコック(孔雀)の形に刈り込まれたトピアリーが載せられています。
小径が交差する場所に設置されたトピアリーの上の3羽のピーコックが会話しているようです。
ピーコックというよりリスに見えますが・・・。
この「Peacock Garden」、特徴的なトピアリーだけではありません。
色鮮やかで多様な草花が重層的に植栽されているのが、このグレート・ディクスターの特徴で、
専門家から高く評価を受けている点でもあります。
こちらも、「Peacock Garden」の一角。
チケットセンターからのメインのエントランスアプローチに並行する形で
作られたボーダー花壇です。
ここでは、何種類かの白い小花の植物の中に、黄緑色の小花の植物が添えられ、
シンプルだけど、とても奥行き感、立体感のある演出がなされていました。
園路も砂利敷きになっていて、よりナチュラルな雰囲気になっています。
階段を上ると、ゲート型に刈り込まれたイチイの壁を抜けて、
次のガーデンルームへと導かれます。
ガーデン内の小径は、人が一人通れるくらいの狭さになっています。
トピアリーの森を抜けると、さわやかな色彩の「High Garden」が広がっています。
空間の中に、びっしりと植栽が詰め込まれています。
ロイド氏の考えで、グレート・ディクスターの植物にはラベルが付けられいないそうです。
別アングルでもう一枚。
まさに、足の踏み場もないほどの高密度で植物が植え込まれています。
こちらは、隣のガーデンルームで、「Orchard Garden」。
訪れたシーズンが、ちょうど花の過渡期だったためか、咲いている花は少なめでしたが、
ここでも、植栽の多様性は写真を見れば分かっていただけるかと思います。
こちらは、刈り込まれたイチイの生け垣の外側(東側)に設けられていた「Vegetable Garden」。
クリストファー・ロイド氏の日々の食卓に上がる野菜を育てていた場所のようです。
トピアリーのあるイチイの生け垣で囲われたガーデンルームを後にして、マナーハウスの裏側、南へ出ました。
これまでの囲われた空間に高密度な植栽をされたゾーンから、一転して、広大なランドスケープのエリアへと
導かれました。
ここは、「Orchard」(果樹園)と呼ばれるエリアで、ワイルドフラワーに覆われた牧歌的な風景が印象的です。
続いて、「Orchard」(果樹園)と向かい合う場所、マナーハウスの裏手にあるのが、こちら、「Long Border」。
グレート・ディクスターの中でも、最も有名な場所と言えるガーデンです。
約60メートルもある「Long Border」は、色鮮やかな花々の大胆な組み合わせが見どころです。
「Long Border」を振り返って見ました。
多様な植物の見事な配置や独特な配色は、グレート・ディクスターの真骨頂と言えます。
色彩感覚豊かで、組み合わせの妙がすばらしい植栽は、2006年にクリストファー・ロイド氏が亡くなって以降、
弟子のヘッドガーデナー、ファーガス・ガレット氏によって継承されているそうです。
こちらは、マナーハウスの真裏(南側)。
建物の改修を行った、建築家のエドウィン・ラッチェンスは、ガーデンの枠組みもデザインしているそうです。
マナーハウスの裏側のステージ状の通路や階段も、ラッチェンスの手によるものだそうです。
彼はアーツ・アンド・クラフツ運動の影響を受け、また造園家のガートルード・ジーキルとも交流がありました。
造園家、ガートルード・ジーキルの提唱した、自然と自生植物を前面に打ち出す作庭は、
建築家のエドウィン・ラッチェンスを通して、クリストファー・ロイド氏にもに影響を与えたと言れています。
こちらは、グレート・ディクスターの地図でいうと、「Upper Moat」(上の濠)と呼ばれているゾーンです。
自然の中に、作られた濠の石垣が庭に風情をもたらしています。
「Upper Moat」から続く、比較的新しい庭、「Exotic Garden」(エキゾチック・ガーデン)の入り口です。
奥に何があるのか分からないように、イチイの木を刈り込んだ生け垣が、細い小径を挟み込んで、
ゲートのようにデザインされています。
こちらが、「Exotic Garden」の内部。
熱帯植物を採り入れた、エキゾチックな風景が作られています。
こちらは、「Nursery」(ナーセリー)。
バックヤードも見ることができるようになっています。
よく見ると、値札が貼ってあるので、ガーデンで使われているのと同じ植物を購入することができるようです。
それにしても、展示方法や値札ひとつとっても、オシャレです。
片隅には、温室も作られていました。
チェルシー薬草園で見たのと同じようなつくりの温室です。
木と煉瓦ブロックとガラスでできていて、日本でよく見かけるビニールハウスとは違って、
とても風景に馴染んでいます。
こちらは、ガーデンの最奥にある「shop」。
お洒落な形のテラコッタ鉢などが無造作に並べられていました。
ギフトショップでは、テラコッタ鉢以外にも、様々なガーデニング用品、種子や苗、本、地元の土産物などが
販売されていましたが、次のガーデンに行く時間が迫ってきて、ゆっくりと中を見ることができませんでした。
先を急ぎます。
続いてこちらは、「Topiary Lawn」と呼ばれるエリア。
トピアリーのある芝生広場、といったところでしょうか?
もう一枚、アングルを変えて「Topiary Lawn」。
右手に見える建物がマナーハウス、左手の銀色の尖塔を持つ建物が「Oast House」というホップの乾燥小屋です。
一面にワイルドフラワーが咲き誇り、花のカーペットのようになっています。
よりナチュラル感のあるガーデンとなっています。
「Topiary Lawn」から、また次のエリアへと移行していきます。
ここにも刈り込まれたトピアリーが設置され、通路をあえて狭めています。
ここにも、ラッチェンスがデザインした階段と、刈り込まれたトピアリー、
そして、テラコッタ鉢に植えられた植物がさりげなく置かれています。
こちらは、「wall Garden」。
建物の壁面(煙突部分)を使って、クリスマスツリーのような形で
壁面に張り付けられるように植物が誘引されています。
張り付けた姿が、右隣にある高木によく似た姿になっていて、
二次元と三次元の対比が面白いと思いました。
建物に直交するように壁が取り付いていて、そのコーナー部分(接続部分)に次の間に行くための開口部が
開けられています。
そこから、斜めに舞台階段を降りてくるような巧みな演出の階段も、ラッチェンスのデザインです。
奥に見えている銀色の尖塔を持つ建物は、「Oast House」と呼ばれ、収穫したホップを乾燥させるための小屋で、
この日の午前中に、シシングハースト・カースル・ガーデンでも見た、特徴的な建物で、
主にケント州やサセックス州などで見ることができるそうです。
イーストサセックス州にある多くの「Oast House」は、現在では住宅に改築されています。
グレート・ディクスターでも「Oast House」は保存され、この地方におけるホップ製造業の
インフォメーション施設として活用されているそうです。
「Oast House」前ガーデンでも、テラコッタ鉢に、一鉢一品種で植栽が植えられ、計画的に配置されていました。
これまで見た他のガーデンではあまり見ない手法ですが、我が家では寄せ植えはせず、この一品種一鉢スタイルで
鉢植の植物を並べていますので、とても参考になる演出方法でした。
角度を変えてもう一枚。
花だけでなく、カラーリーフの鉢も一鉢一品種スタイルで、様々な葉の色、葉の形、背丈など、計算して配置され
とても美しい見せ方だと思いました。
「Wall Garden」を抜けると、次は「Sunk Garden」(サンクン・ガーデン)。
いわゆる沈床式庭園と呼ばれるもので、一番低い位置に池が作られていました。
グレート・ディクスターのサンクン・ガーデンは、ラッチェンスがデザインした沈床式庭園の中でも、
最も素晴らしいもとの言われているそうです。
90°回転して、池のレベルに下りて撮影してみました。
正面奥の高い位置にある刈り込まれた生け垣がある部分が、「Front Meadow」と呼ばれる
エントランスアプローチになります。
写真で見てもかなりの高低差があります。
「Sunk Garden」は、二方(北と西)を建物に囲われています。
こちらは、北側にある建物で、その壁面を使って、放射状に植物が誘引されていたのがとても印象的でした。
まだ葉が生い茂る前で、銀色に光る枝が木製の壁面と相まって、とても美しい風景でした。
その足元の花壇は、「Barn Garden」と呼ばれています。
赤と白のコントラストの効いた配色で花が咲いていました。
こちらは、「Sunk Garden」の西側の建物で、「Great Barn」(大きな農作業小屋)と呼ばれている建物。
かなり古い建物で、大きな屋根面は波打つように歪んでいました。
シシングハースト・カースル・ガーデンでも思いましたが、やはりこのような古い歴史的な建物があってこそ
庭が一層映えるのだと思います。
「Great Barn」横の小径。
ここでも多彩な植栽と、その背景となる赤い屋根の建物がとても効いていると思います。
「Sunk Garden」の中の植栽。
細い小径を塞ぐように両脇の花壇から植物が茂り、背の高さも人の高さほどの成長しています。
むしろ、人を隠すぐらいの勢いで植物を成長させている感じがします。
門型に刈り込まれたトピアリーを抜けて、「Front Meadow」へ出ました。
写真は、「Front Meadow」から「Sunk Garden」方向を振り向いたところ。
そして、再び「Front Meadow」を通って出入り口へと向かいます。
あまり時間がなかったため、駆け足で園内を巡りました。
グレート・ディクスターの印象は、「万人受けするシシング・ハースト」とは真逆で、
「通な玄人受けするガーデン」、といった感じです。
植栽の選定や配置も、他のガーデンとは一線を画したオリジナリティの高さを感じますし、
下世話な言葉で表現すると、全てが「渋い!」といった感じでしょうか?
きっと、季節ごとに様々に変化するのだと思いますし、このガーデンの素晴らしさを実感できるくらい
ゆっくりと過ごせたら良かったなと、少々残念に思いながら、グレート・ディクスターを後にしました。
次回は、この日3番目に訪れた庭、海沿いの街にある「ポートリム・ガーデン」をご紹介します。
乞うご期待!
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