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専門家「風景」をつくるガーデニング術

チェルシーフラワーショー2018・レポート(中編) ~コンテスト・ガーデン全紹介〜①

居場英則

前々回の記事では、この5月にイギリス・ロンドンで開催された、「チェルシー・フラワーショー2018」に、

日本人ガーデンデザイナー・石原和幸氏のチームの一員として、庭をつくってきた話を書かせていただきました。

今回は、その続編として、石原先生以外のコンテスト・ガーデンに出展された庭についてレポートしてみたいと

思います。


エリザベス女王が総裁を務められる、英国王立園芸協会(RHS)が主催する、チェルシーフラワーショーは、

150年以上の歴史と権威のある、「世界最高峰」と称されるガーデニングショーで、

毎年15万人以上の入場者が訪れます。

ファッション業界でいう、「パリコレ」のような位置づけでしょうか?

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こちらは、芝生広場に設営された屋外のイベント会場。 開催期間中、演奏会など様々な催しが行われています。

入場者は、パビリオン内のショップや展示、屋外のガーデンなどを見学しつつ、ここで休憩をしたり食事をしたり、

フラワーショーを楽しんでおられました。

このチェルシーフラワーショーのハイライトは、世界各国で活躍する著名なガーデンデザイナーによって

デザインされた「コンテスト・ガーデン」と言っても過言ではないでしょう。

今回、日本から唯一出展された、ガーデンデザイナー・石原和幸氏の庭づくりのサポートメンバーとして、

フラワーショーの開催前から2週間ほど、毎日、会場に通って庭づくりをして来ました。

その傍ら、他のガーデンデザイナーがつくられる庭がどのように出来て行くのか、

その舞台裏の様子を見ることが出来、とても貴重な体験をしました。

庭が出来上がって行く過程のレアな写真も交えながら、今年2018年に出展されたコンテスト・ガーデンを

振り返ってみたいと思います。

今回も、かなりの写真枚数ですが、良かったらお付き合いください。

「チェルシー・フラワーショー2018」のコンテスト・ガーデンは、大きく3つの部門に分かれています。

大きな区画が割り当てられる、まさに「魅せる庭」のフラワーショーの花形でもある「ショー・ガーデン部門」は、

会場の目抜き通りに面した場所で披露されます。

僕がチームメンバーとして参加させていただいた日本人ガーデンデザイナーの石原和幸氏が挑戦されたのが、

「アーティザン・ガーデン部門」。

こちらは、会場の東側、森の中にエリアが割り当てられており、ひとつの庭の区画は「ショーガーデン」

3分の1ほどの大きさです。

背景になる森とのバランスも考慮しなければならないガーデンです。

もうひとつが、「スペース・トゥ・グロウ・ガーデン部門/Space to Grow Gardens」。

「ショー・ガーデン部門」と「アーティザン・ガーデン部門」は、ほぼ毎年変わらない部門のようですが、

最後の「スペース・トゥ・グロウ・ガーデン部門」は、数年に一度、テーマが変わるカテゴリーのようで、

社会や環境など、時代の変化を取り入れたテーマで、時折見直しを行っている部門です。

それぞれのガーデンに対して、審査が行われ、「ゴールド(金賞)」、「シルバーギルド(準金賞)」、

「シルバー(銀賞)」、「ブロンズ(銅賞)」の賞が与えられ、

また、それぞれの部門にひとつ、「ベストガーデン賞」が与えられます。

今回はこの3部門のうち、「ショー・ガーデン部門」をメインにご紹介いたします。

「アーティザン・ガーデン部門」と「スペース・トゥ・グロウ・ガーデン部門/Space to Grow Gardens」は

記事下にありますリンクからご覧いただけます。


前置きが長くなりました。

それでは、これから、今年2018年のチェルシーフラワーショーに出展された、全ての庭を紹介したいと思います。

ただ、僕自身はガーデンの評論家ではありませんので、各庭の詳細なコンセプトや評価などについては、

言及できる立場ではありませんので、ここでは、あくまでも個人的な印象について、書かせていただこうと思います。


各庭の詳細については、主催者の英国王立園芸協会(RHS)オフィシャルサイトがありますので、

そちらをご覧になって下さいね。(英語表記ですが:汗)


【 Show Gardens 】

では、まず初めに、フラワーショーの花形、「ショー・ガーデン部門」の庭から


■ The Morgan Stanley Garden for the NSPCC

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こちらは、ショー・ガーデン部門で、「ベストガーデン賞」を受賞した庭(もちろん、金賞も受賞)で、

児童虐待や子供を巡る問題を支援するNCPCCという機関がスポンサーとなっている庭です。

NSPCCの活動によって保護された子供たちの心の解放を表現する、というコンセプトの庭のようです。

庭への入口部分から、奥が見渡せず、不安を感じさせる構成になっています。

緑一色の中に、鮮やかなピンクの覆輪のシャクナゲが植栽されていて、とても印象に残る演出でした。

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庭の奥には、安心して過ごせる安らぎの空間があり、さらにその奥には水盤が設けられていました。

案内してくれた、現地の日本人ガーデナーが、この庭のコンセプトを教えてくれたのですが、

単に庭が美しいとか、表面上のことだけでなく、出来上がった庭が、デザイナーやスポンサーのメッセージを

表現することになる、ということを知りました。


■ Welcom to Yorkshire

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こちらは、イングランド北部に位置する、ヨークシャー地方の風景をデザインした庭。

ショー・ガーデン部門でゴールドメダル(金賞)受賞、ベストガーデン賞は他の庭(ひとつ前の庭)が受賞

しましたが、人気投票(People's Choice Awarads)では、この庭がショー・ガーデン部門で選ばれています。

背景の森の木々とも良く調和して、イギリスを代表するような美しい風景がデザインされています。

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与えられた区画に起伏を作って、小川が再現されていました。

植栽も素敵で、短期間につくられた庭と思えないほど、ナチュラルな仕上がりになっていました。

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こちらは、庭を作っているところです。 伝統的なイギリスの石積み技法で、家や外構の壁がつくられています。


■ The Trailfinders South African Wine Estate

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こちらは、南アフリカのワイン製造所の庭という設定。

煉瓦屋根の白い建物の前に広がる前庭は、南アフリカの乾いた大地に育つワイルドな植物が植えられています

シルバーギルドメダル(準金賞)受賞の庭です。

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こちらは、庭の制作途中の様子。

前庭の向かって右側に急勾配の斜面がつくられ、そこに大きな岩がセットされています。

その岩の間に、特徴的な植物が植えられて行きます。


■ The David Harber and Savils Garden

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こちらは、非常にアーティスティックなガーデン。

現地の新聞でも、とても注目を集めていた庭です。

穴の開いた金属パネルを何層にも建て、その層(レイヤー)を縫うように園路がつくられています。

その園路に沿って、色とりどりの草花が植えられています。

ブロンズメダル(銅賞)受賞の庭です。

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こちらは、庭を作っている途中の様子。

3層の衝立板がレイヤーとなり、その衝立の中央には穴が開けられ、奥まで見通せるデザインになっています。

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こちらが完成した庭。 一番奥にブルーと金色で構成されたオブジェが据え付けられています。

とてもパースペクティブな、奥行き感を感じる構成で、奥のシンボルに辿り着くまでの園路がとても楽しそうな

デザインになっています。


■ LG Eco-City Garden

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こちらは、韓国企業のLG電子がスポンサーになっている庭で、ネーミングにもなっている「エコシティガーデン」

コンセプトのようです。

奥に建物があり、その前にアウトドアリビング的な、庭が一段下がったところにデザインされています。

さらに、スポンサーのLG電子の製品でもあるテレビモニターが左側の壁面に設置され、

庭で映像を楽しむことができるようになっています。

この庭では、アウトドアリビングのソファに置かれた黄色とオレンジ色のクッションに呼応するように、

庭には、黄色とオレンジの花が咲き乱れ、とても美しい風景を作っていました。

シルバーギルド(準金賞)受賞の庭です。

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こちらは、制作途中の庭の様子。

奥の建物が出来上がり、手前にアウトドアリビングになるサンクンガーデン(沈下式庭園)を施工している

ところです。

シンボルツリーになる大きな植栽も運び込まれています。

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建物側から前庭方向を見た様子。

アウトドアリビングのサンクンガーデンと建物の間には、水盤があって、飛び石で繋がれています。

たくさんの要素が盛り込まれた、美しいガーデンです。

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アウトドアリビングのサンクンガーデン(沈下式庭園)を横から見たアングル。

手前には、彫刻、奥にはTVモニターと壁面緑化が見えます。

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一番奥の建物の中の様子。

広いリビング・ダイニング・キッチンの前後、側面に大きな開口部が設けられ、視覚の抜けと風の抜けが

とても心地良い空間になっています。


■ The M&G Garden

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こちらは、今年のチェルシーフラワーショー全体のメインスポンサー、投資会社のM&G社が

スポンサーになっているガーデン。

サラー・プライスという若い女性デザイナーを起用した、とても個性的なガーデン。

ゴールドメダル(金賞)受賞の庭。

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この庭の特徴は、何と言ってもこのテラコッタ色の壁面。

「版築(ばんちく)」という、土を強く突き固める技法でつくられた層状の壁面と、

瓦材のようなパーツを積み重ねてデザインされた、光と風が通り抜けるスクリーン状の壁面が織りなす、

とても個性的で美しい庭です。

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植栽も、テラコッタ色の壁面に調和する独特の世界観を作り出しています。

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こちらは、作庭の様子。 壁面が仕上がり、大量の植物が現場に持ち込まれ、これから植えて行くところです。


■ The Lemon Tree Trust Garden

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こちらは、とてもコンセプチュアルな庭。

案内してくれた現地に住む日本人ガーデナーさんが教えてくれた、この庭のコンセプトは、

シリア国境にある難民キャンプの庭を表現したもの、と言っていたと思います。

難民キャンプという限られた空間の中で、少しでも暮らしの環境を良くするために作られた

Vertical Garden(垂直の庭)」。

難民キャンプという、現代の社会が抱える問題をテーマに庭をつくるという、深い示唆に富んだ作品です。

この庭は、シルバーギルドメダル(準金賞)を受賞しました。

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こちらは作庭途中の様子。

この庭がどのようなコンセプトのもとにデザインされているのかも知らなかったので、

2階建てのバルコニーのような部分がどんな風になるのか、想像もできませんでした。

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スポンサーのLEMON TREE TRUSTの関係なのでしょう、シンボルツリーのレモンの木が植えられ、

その他にも植栽が次々と植え込まれているところです。


■ Wuhan Water Garden , China

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こちらは、今年のショーガーデンの中で、一番目立つ場所に作られた庭で、中国の武漢(ウーハン)水の庭を

表現したもののようです。

この場所は、四周を道路に囲まれているため、裏がなく、どこからも見えるため、

全方位的に仕上げて行かなければならない、とても難易度の高いガーデンです。

敷地を横断するように園路が設けられ、その両サイドに水庭、植栽ゾーンが配置されています。

ブロンズメダル(銅賞)受賞の庭です。

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中央の水盤には、噴水の仕掛けが施され、定期的にミストが立ち上るような演出になっていました。

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こちらは、作庭初期の様子。

かなり大掛かりなベース(基礎)が設置されていました。

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完成した庭のディテール。

コールテン鋼の植栽枡が階段状に連なるデザインになっていました


■ VTB Capital Garden - Spirit of Cornwall

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こちらは、とてもモダンで、幾何学的な造形のガーデンです。

特に円形をモチーフにして、いくつもの円が重なるような配置になっています。

水盤の上に、丸いステージがずれながらつながり、置かれたガラスのテーブルも、その上のプレート(皿)も円形、

オブジェのような石のベンチも円形、黒い構造物の上には、球体をスライスしたような水盤が持ち上げられ、

底から水が流れ落ちています。

緑一色の植栽が、モノトーンの空間に映えてとても美しいです。

シルバーギルド(準金賞)受賞の庭。

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作庭途中の様子。

大量の植栽が運び込まれ、このあと次々と植え込まれて行きます。


■ The Wedgwood Garden

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ショー・ガーデンの最後に紹介するのが、こちらの庭。

陶磁器メーカーのウェッジウッドがスポンサーになっているガーデン。

丁寧に作り込まれたガーデンの中央に、とてもアーティスティックな鉄のオブジェが設置されています。

切リ出した石をベンチにしたり、ナチュラルに植え込まれた植栽など、自然を感じる空間の中に、

人工的な構造物が同居しながら、とても静かで知的な空気が流れる庭でした。

ゴールドメダル(金賞)受賞の庭です。

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ガーデンの横には、ウェッジウッドのショールーム的なパビリオンがあり、庭と一体となって、

上質な陶磁器のある暮らしを提案していました。

続きまして2つ目の部門、Artisan Gardens 】の記事はこちら

3つ目の部門、【 Space to Grow Gardens 】の記事はこちら

【 Garden Feature 】

「ショー・ガーデン部門」、「アーティザン・ガーデン部門」、「スペース・トゥ・グロウ・ガーデン部門/

Space to Grow Gardens」と、今年2018年のチェルシー・フラワーショーのコンテスト・ガーデンを見て来ましたが、

如何でしたでしょうか?

最後に番外編として、もうひとつ会場内に作られたガーデンを紹介します。


■ RHS Feel Good Garden

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こちらは、主催者のRHS(英国王立園芸協会)のテーマガーデンのような庭。

コンテスト・ガーデンは、金賞はじめ、各賞を争う部門ですが、こちらは、競争を伴わない、

いわば殿堂入りのデザイナーによるガーデンなのだそうです。

Matt Keightley というイギリス人ガーデンデザイナーの作品です。

こちらが、完成したばかりのガーデンの様子。

スパイラル(らせん状)に連なる特徴的なデザインです。

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こちらは、工事中の様子。

広い敷地に、高木が何本も配置されています。

この庭も、完成形がどんな風になるのか、とても注目していたガーデンです。

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フラワーショーがオープンした際の様子。

スパイラルに連なる石はベンチになっていました。

メインストリートの脇にあり、休憩スペースとして、この螺旋状のベンチが活用されていました。

「見る庭」でなく、「使う庭」として、美しいデザインが施されたガーデンです。


最後にもう一枚。

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こちらは、アーティザンガーデン部門の入口部分に設けられた天蓋。

森の木々を使って張られた美しいデザインの日よけ天蓋です。


チェルシー・フラワーショーでは、このような美しいデザインがあちこちに散りばめられていました。

世界最先端のガーデンを体感することができるチェルシー・フラワーショー。

是非一度、見に行ってみられては如何でしょうか?


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居場英則

『進化する庭、変わる庭』がテーマ。本業は街づくりコンサルタント、一級建築士、一級造園施工管理技士、登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。土面の殆どない庭で、現在約120種類のバラと、紫陽花、クレマチス、クリスマスローズ、チューリップ、芍薬等を育成中。僕が自身の庭を創り変える過程で気づいたこと。それは、植物の持つデザイン性と無限の可能。そして、都市部の限定的な庭でも、立体的な空間使用、多彩な色遣い、四季の植栽の工夫で、『風景をデザインできる』ということ。個々の庭を変えることで、街の風景も変えられるはず…。『庭を変え、街の風景を変えること』が僕の人生の目標、ライフワーク。ーー庭を変えていくことで人生も変えていくchange my garden/change my lifeーー

個人ブログChange My Garden

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