2020.9. 1 / 花の名所、花のイベント
8月に入ってから、僕の住む奈良では雨が一度も降っていません。
これほど雨が降らない8月は記憶にありません。
毎朝、出勤前に庭のバラや木々に水やりするのが、ここのところ日課となっています。
さて、今回はこの暑さを忘れさせてくれる美しい風景をご紹介したいと思います。
以前、こちらの「dinos ガーデンスタイリング」にて、『僕のおススメのバラ園・関東編』と題して、
関東にある3つのバラ園を紹介させていただいたことがありますが、今回はそのひとつ、
群馬県館林市にある「東武トレジャーガーデン」のローズガーデンを改めて採り上げてみたいと思います。
前回は、4、5枚の写真のみを使って概略を紹介しただけでしたが、今回は写真点数も増やして、
この素敵なガーデンの魅力をより詳しくお伝えできればと思っています。
東武トレジャーガーデンを訪れたのは、今から数年前。
関西から、東京を経由して群馬県館林まで行くのは、正直なところ、結構な時間が掛かります。
育種家であり、ガーデンデザイナーでもある河合伸志さんがデザイン監修されたバラ園ということで、
ずっと前からバラシーズンに訪れてみたいと思っていた憧れの場所でした。
前泊して、朝一番、開園前の現地に到着すると、既に何人もの方が開園を待ちわびて待機しておられました。
写真は、イギリスの雰囲気を醸し出すレンガ造りの建物が対になって建つエントランスゲート。
右側のつるバラが誘引された部分がチケット売り場となっています。
開園と同時に入園し、まず正面に見えるのが、こちらの壁面。
石造りのゲート(アーチのある壁面)に誘引されているつるバラは、ピエール・ド・ロンサール。
アーチの向こう側には、手前から流れ込む水が蓄えられた細長い水盤が奥へと続いています。
シンメトリック(対称的)な美しいランドスケープデザインです。
このピエール・ド・ロンサールの壁面を少し斜めから見たところです。
灰色の石造りの壁面と、ピエール・ド・ロンサールのピンク色の花のコントラストがとても印象的です。
葉が茂っていて、どのようにこの壁面に誘引されているのか、よく分かりませんでしたが、
アーチや壁面に満遍なく、ピエール・ド・ロンサールの花が咲き誇り、「誘引の妙」を感じます。
こちらは、エントランスゲートの建物を裏側(園内側)から見たところ。
煙突を持つイギリスの建物を模して造られたレンガづくりの建築は、スカイラインが特徴的で、
手前に植栽されたバラとも美しく調和していました。
ピエールの壁を抜けて中央の水盤の奥まで行き、エントランスゲート方向を振り向いたのが上の写真。
水盤の両サイドは、幅3mのロングボーダーガーデンとなっていて、宿根草を中心とした季節ごとに変わる花々で
彩られます。
ロングボーダーガーデンを抜けると、「さくらのトンネル」と命名されたアーチが迎えてくれます。
幅広で、低めの白いアーチが、奥の方まで約20mほど続きます。
アーチの中に入って、エントランス方向を見返したアングル。
この白いアーチに誘引されているのは、「ポールズ・ヒマラヤン・ムスク」という薄桃色の花が咲く
ランブラーローズ(大きく伸びるつるバラ)。
少し遅咲きのこのバラは、訪れた時、まだ開花し始めたばかりでほとんど咲いていませんでした。
同じ品種のバラだけで覆われたバラのトンネルが全て咲き揃うと、まさに「桜のトンネル」になるのでしょう。
このトンネルが淡い桜色に染まる景色を、いつかこの目で見てみたいと思います。
このさくらのトンネルの見どころは、アーチのバラだけではありません。
つるバラの足元に植えられたギボウシなどの緑の葉物のボーダー花壇が美しいです。
こちらは、白い斑入りのギボウシ。
ボーダー花壇の中で、ひと際存在感があります。
白と緑色のシンプルな空間が、とても清涼感があって素敵です。
アーチの中ほどを横断する通路部分を見たところ。
白い花は宿根草のフランスギク。
ここも白と緑色で構成されたシンプルで美しい風景です。
こちらは、「さくらのトンネル」を抜けた正面に見える風景で、ピンク色のバラは、
このバラ園をデザインされた河合さんが育種された「シェアリング・ハピネス」というバラです。
こちらが、その「シェアリング・ハピネス」というバラのアップ。
ここ館林市には「分福茶釜」ゆかりの茂林寺があることから、
「分福=幸福を皆に分け与える」という言葉に因んで、「シェアリング・ハピネス」と名付けられ、
東武トレジャーガーデンのシンボルローズとなっています。
「さくらのトンネル」の奥には、アンティークなレンガブロックを積んで作られた円形の壁が
ぐるっと一周とり囲み、その内と外に、テーマの異なるガーデンが作られています。
まずは、円形の壁の外側を回ってみましょう。
円形の壁の外側も、壁に並行するように円形の通路が作られています。
こちらは、「フレグラント・ローズガーデン」と名付けられ、
香りに秀でた品種を色ごとに植栽した、心潤う空間となっています。
このあたりには、黄色やオレンジ色のバラが集中的に配置されています。
こちらは、オレンジ色のバラで、ジャスト・ジョーイというHT品種。
世界バラ会議で名誉ある「殿堂入りのバラ」に認定されているバラです。
このあたりになると、オレンジ色からピンク、赤いバラへとグラデーションしています。
円形通路となっているため、道の先まで見通せず、次はどんな風景が広がっているのか、
期待感を持たせる仕掛けとなっています。
続いて、今度は円の壁の内側に入ってみましょう。
こちらは、「ブルーローズのラビリンス」と名付けられたエリアで、
レンガウォールに囲まれた中にブルー系のバラが咲く、癒しの木庭ゾーンとなっています。
こちらは、「オード・トワレ」という青みがかったピンク色のバラで、河合さんが育種されたバラです。
非常に多花性で、背景のレンガブロックにも少し青みが入っているため、とても相性が良いです。
この円形の壁の内側は、部分的に湿地帯のようになっていて、
パンフレットには「水辺のローズガーデン」とも表記されています。
水生植物や高木も植えられ、不思議な空間となっています。
この円形の壁面を背景にオベリスク仕立てにされた青いつるバラがあります。
以前、河合さんが監修されたバラの教則本の中でも紹介されていたバラで、
是非とも実物を見てみたいと思っていた風景を目の当たりにしました。
こちらが、そのバラ、「パルフェ・タムール」。
日本古来の色、海老(葡萄)茶色の一重咲きのバラで、
僕がデザインさせてもらった、和の趣きのバラ園、京北バラ園(花簾庭)でも
植栽しています。
ここ東武トレジャーガーデンでは、レンガブロックを背景に洋の趣きを感じます。
使い方次第で様々な表情を生み出す、ユーティリティーなバラです。
こちらも印象的なシーン。
右側のバラは、ブルー香のする「ブルー・フォ-・ユー」という品種。
背景のライムグリーンの葉を持つ高木とのコントラストも絶妙です。
こちらは、「ブルー・フォー・ユー」のアップ。
多花性で、とても個性的な印象の木立性のバラです。
上手く風景の中で馴染ませて使っておられるところに感服しました。
こちらも、円形のレンガブロックの内側で、壁面に誘引されたつるバラ。
中央に「ダーク・チェリー・パイ」というバラ、その両側に「グロリアーナ」という、どちらも赤紫色のバラを
織り交ぜて壁面一杯に咲かせています。
レンガブロックとの相性も素晴らしく、とても目を惹く印象的な風景となっています。
ここからは、円形の小径から離れて、長いボーダー花壇を歩いていきましょう。
この辺りは、赤いバラを集めたゾーンとなっています。
シンプルに、赤い花と緑の葉のコントラストが強調された空間です。
この辺りは、黄色やオレンジ、アプリコット色のバラを中心に、白いバラに加え、白い宿根草や
ユーフォルビアといった少し異質な植物を敢えて混植し、不思議な空間が構成されています。
この辺りも黄色やオレンジ色のバラが集められ、
花壇手前の背丈の低いバラと、花壇後方のオベリスクを使って仕立てられた
つるバラが立体的に構成されていて、ドラマチックな演出がされています。
こちらは、僕も大好きなつるバラで、サンセット・グロウ。
河合伸志さんがデザインされた横浜イングリッシュガーデンでは、
サンセット・グロウは小さな壁面に誘引されて、とても美しかったのですが、
ここ館林ではオベリスク仕立てにされ、横浜とは違った風景となっています。
同じバラでも仕立て方ひとつで全く印象が異なります。
こちらは、我が家でも育てているつるバラで、カーディナル・ヒューム。
四季咲き性の強いつるバラで、我が家でも年中咲いている印象です。
多花性で、比較的コンパクトに納まるスペックの高いつるバラだと思います。
我が家で育てているバラがセレクトされていると、やはり嬉しくなりますね。
こちらでは、大きなテラコッタ鉢に植えられたピンクのバラが印象的です。
長いボーダー花壇が単調にならないよう、さまざまな演出方法がとられています。
このエリアでは、赤いバラが、ピンクのバラ、アプリコット色のバラなどの間を縫うように、
花壇手前、花壇後方の壁面、オベリスク・・・といったように仕立て方を変化させながら
複雑な風景を構成しています。
こちらは、色彩の対比が美しいゾーンです。
アプリコット、パープル、ピンクといった優しい色彩の間を、白いレースのような宿根草が空間を埋めるように
つないでいます。
こちらは、河合さんの真骨頂、ニュアンスカラーのバラを集めたゾーンです。
とてもオリジナリティの高い、高度な色合わせがされた空間です。
こちらは、河合さんが育種されたバラで「空蝉(うつせみ)」。
少しくすみが掛かったアプリコット色のバラで、群生するととても美しい風景をつくっています。
こちらも、河合さんが作出されたバラで、「ニキータ」。
このバラのオレンジ色も、他にはない独特の色彩がとても印象的です。
最後の一枚は、こちら。
こちらも河合さんが育種されたバラで「禅(ZEN)」。
上品なピンクの花弁の中央に、うっすらと茶色が混じる、
とても美しいバラです。
まだまだご紹介したいバラの風景やバラ以外の植物がつくる美しい空間がたくさんある
東武トレジャーガーデンですが、ここでは到底全部をご紹介することはできません。
バラの季節以外にも、芝桜やネモフィラ、ラベンダー、バーベナ、ダリア、コスモスなど
四季折々の草花が広大な敷地に美しく植栽されています。
中でも、ローズガーデンは、育種家でありガーデンデザイナーの河合伸志さんがデザイン監修されている
こともあり、その美しさは群を抜いていると思います。
バラの植栽配置や仕立て方など、勉強になることもとても多いバラ園です。
関西から館林に行くには少し時間がかかりますが、是非一度は行っていただきたい、おススメのバラ園です。
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