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専門家「風景」をつくるガーデニング術

武田薬品・京都薬用植物園 2024

居場英則

僕の地元の古都・奈良の世界遺産のひとつ、唐招提寺の境内に、開祖・鑑真和上ゆかりの薬草園を

再興するプロジェクトに、ガーデンデザイナーとして数年前から関わらせていただいております。

薬草園プロジェクトに関わってまだ日も浅いので、薬草や薬木はそんなに詳しくないのですが、

これまでにも国内外の薬草園をいくつか見て回りました。

今回は、直近に見に行った薬草園で、京都にある武田薬品工業・京都薬用植物園に、

この春、薬草に詳しい友人にお誘いをいただいて見学させていただきましたので、

その時の様子をレポートしたいと思います。

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武田薬品・京都薬用植物園のHPによると、1933年に、「京都武田薬草園」として創設され、

薬用植物を中心に、約3,000種の植物を保有・栽培されているとのことです。

通常は一般公開されていない施設ですが、5月~12月にかけて、月3日程度、見学会(研修会)が

開催されているようで(それぞれ事前申込制)、今回もその研修会に合わせて、見学させていただきました。

薬用植物園の敷地面積やは、約95,000㎡(約28,000坪)あるらしく、とても広大です。

その中を、いくつかのグループに分かれて案内していただけます。

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まず最初にご案内いただいたのが、「展示棟」。

明治・大正期の実業家・田辺貞吉の邸宅を移築したものだそうです。

建物だけでも十分見ごたえがあるのですが、室内では薬用植物の標本が展示されていて、

中には、触ったり、味を確かめたりすることができるものもありました。

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展示棟の案内のあと、屋外に出て、広い園内を小さなグループに分かれて案内されます。

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まず最初に案内していただいたのが、「民間薬園」ゾーン。

品種が混ざらないように、小さく区画された花壇に整然と、

薬用植物が植栽されています。

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中には、つるバラも植栽されていました。バラも薬用植物のひとつなんですね。

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今回は、ひとつひとつの薬草を紹介するというより、薬草園全体の景観、植栽方法などを

ご紹介しようと思いますので、品種ごとの紹介は割愛させていただきますこと、ご了承ください。

ちなみに、武田薬品・京都薬用植物園のHPでは、この「民間薬園」エリアでは、

古今東西の祖先が生活の知恵として利用してきた薬用植物を楽しむことでできます、と紹介されています。

日本で古くから薬の代わりとして利用されている植物を集めてあったり、サプリメントや健康食品として

利用される植物や、西洋薬発見の元となった医薬品原料植物エリアなどもつくられた多彩なエリアとなっています。

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薬草の中には、このようにつる性のものも多く、放っておくと倒れて見苦しくなるのですが、

ここでは支柱を使って、極力美しく見せるに工夫されていました。

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こちらは、花壇の中に、品種ごと鉢植えで埋められていました。株が大きくなっても、

品種が混じらないような見せ方の工夫です。

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武田薬品・京都薬用植物園は、京都市左京区一条寺の山野中腹に位置しています。

この写真では少し分かりにくいかもしれませんが、写真右側の奥には、京都盆地の街並みを見下ろす眺望が

広がっています。

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薬用植物を分類して植栽している花壇ですが、このエリアでは、ひとつひとつ々大きさですが、

その升目を縦横遣いして、見た目にも変化をもたらしています。

園内を歩いて回る際に、ちょっとした迷路(メイズ)を歩いているような感じになります。

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園内のところどころで、ガイドの方(武田薬品の社員の方)が、見どころ解説してくださいます。

主要な園路には、青々と茂った芝生が敷かれていて、しかもとてもきれいに刈り込み、整備されています。

日々のメンテナンスの高さがうかがい知れます。

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薬草花壇には、日陰を好む植物など、ところどころに黒い遮光シートが掛けられていました。

これも、支柱も黒く塗られ、遮光シートの傾きなどもきれいに合わせてあって、

どこをとってもきめ細やかな作り込みが感じられました。

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京都薬用植物園の最も西側にある「民間薬園」ゾーン、その際奥のエリアです。

薬草花壇が並ぶそのさらに奥に、フェンスで囲われた一角があります。

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こちらが、そのフェンスで囲われて、さらにそのフェンスの上部には忍び返しまでついて、

厳重に管理されたエリアがあります。

こちらは、トリカブトなど、いわゆる「毒」を持つ薬用植物が植栽されているエリアなのです。

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その都度、鍵を開けてもらって、その毒草エリアも見学させていただきました。

薬と毒は表裏一体で、知識がなく外見を見ただけでは毒草とは分からない植物ばかりでした。

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毒草エリアから、「民間薬園」エリアを見返したアングルです。

ここの園路は、歩きやすいインターロッキング張りとなっていました。

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「民間薬園」ゾーンから、V字ターンして、今度はこの薬用植物園の中心エリア、「中央標本園」に向かう

斜路(スロープ)を上がっていくところには、大型のアーチが4連設置されていました。

ここには、つる性の薬草が植栽されていました。

うかがった時(6月)には、まだツルはさほど伸びておらず、薬草のトンネルにはなっていませんでした。

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「中央標本園」に向かう手前には、「水生植物」が育成されているエリア(水槽)が並んでいます。

武田薬品・京都薬用植物園のHPによると、「水生植物」コーナーには、オニバスやコウホネなどを植栽していると

解説されています。

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かなり大きな水槽で、スイレンなどが育成されていました。

奥にちらっと見えている、高い木が見えるあたりが、「中央標本園」です。

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「水生植物」を育成している水槽のアップです。

植物の品種によっては、鉢植えのまま、土面が水にかぶるか被らないかのギリギリのレベルで

鉢が設置されているようです。

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こちらは、スイレンや蓮が植えられています。

こちらは、鉢のままなのか、植物が水槽の下にそのまま植栽されているのかまでは分かりませんでした。

水槽の右側に、水が流れ込むようになっていますので、おそらく水はポンプアップされ循環していると思います。

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「水生植物」エリアから、今歩いてきた方向を見返したアングルです。

園内は、自然の地形を生かして作られており、もともとの山だった部分には、巨木がそのまま残っており、

園路の木陰をつくってくれています。

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このあたりが、この薬用植物園の中心部、「中央標本園(Central Garden)」です。

視界が開けたエリアで、奥に京都盆地を囲む山並みが見え、背の高いシンボルツーの針葉樹があり、

美しく刈り込まれた芝生の道が奥まで続いていて、ランドスケープ的にも美しい景観となっています。

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「中央標本園」の向かって左側、こちらは低い階段状にしつらえられた薬草花壇が広がっています。

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反対側(向かって右側)のエリアは、こんな感じ。

これまでとは違って、ある程度の分量(面積)をもった花壇がつくられています。

うかがった時には、花が咲いていたわけではありませんが、ひょっとしたら花が咲くと、

群となって美しい風景になるのではないかと想像しました。

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「中央標本園」にも、人為的に日陰をつくっている花壇がありました。

うまく天然素材のスダレを使って、人工的に見えにくいような配慮がされていました。

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このような形で、遮光シートや簾(スダレ)によって、かなり強めの遮光がされています。

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ガイドの方が、その遮光シートを開けて、中を見せてくれました。中は、かなりの日陰になっていました。

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こちらは、ドクダミが植えられている花壇。

唐招提寺・薬草園にも、八重のドクダミを植栽していますが、ドクダミは地下茎でどんどん増えるため、

他の薬草とエリア分けが必須で、ここではコンクリート製二次製品のPC板を使ってを使って区分されていました。

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「中央標本園」の最奥から、中央の芝生敷きの園路方向を見たアングルです。

園路もインターロッキング、芝生敷きなどが混在していますが、整然と並んでいて、とても美しく見えます。

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このあたりは、おそらくシャクヤクの群生地。

花が咲く季節に来ると、きっと美しいだろうなと思いました。

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アングルを変えて、もう一枚、シャクヤクの群生ゾーンを撮ってみました。

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こちらは、圃場のような、まだ未成育のの薬草が植えられたエリアでしょうか?

土面には、稲ワラやおがくず?、バーク?のように見えるマルチング材が花壇(植物)によって変えられています。

このあたりを見ても、様々な配慮の中で育成されているのが良く分かります。

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圃場?花壇を横から見たところ。

基本的に、畝状に花壇がつくられていますが、木の形状をした土止めが設けられいることもあり、

品種が揃っていることもあって、市民農園のような感じには見えませんでした。

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クローズアップしてみると、こんな感じ。

敷きワラも飛ばないように、細いロープで覆ってあり、細かいところまで配慮が行き届いていました。

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一番手前の花壇は、最近植栽されたばかりと思われる感じで、土もまだ濃い茶色のままでした。

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こちらには、大型の薬草が植えられています。

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花壇ひとつひとつに、細かい品種札が設けられており、薬草に詳しい人にとっては、これも重要な情報になります。

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こちらは、アカンサスかな?一株でかなり大きく育ちます。

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「中央標本園」の端には、こんなエリアもありました。

ここでは、品種ごとの花壇が円形につくられていました。

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花壇の見せ方にもバリエーションがあり、風景的にも変化が出て、面白いです。

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「中央標本園」を後にして、次のエリアへと向かいます。

最後に、中央標本園エリアを振り返ってみると、こんな風に全景が見えます。

園内でも、このあたりがランドスケープ的に一番絵になるエリアではないかと思います。

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続いて案内されたのが、「展示温室」。

HPによると、熱帯・亜熱帯の薬用・有用植物を、約600種栽培・展示しているそうです。

薬用植物では、、トウシキミ、トンキンニッケイなど、熱帯果樹では、カカオ・サンジャクバナナなど、

スパイスでは、コショウ、バニラなどを展示しているそうです。

写真の左側には、バニラが植栽されていて、温室内は、とても良い香りがしていました。

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展示されているのは、薬用植物や薬木なのですが、観葉植物フリークの僕としては、観葉植物として

家で育ててもいいなと思う植物も多々ありました。

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「展示温室」を出て、次に案内されたのは、「漢方処方園」。

さまざまな生薬となる薬用植物を処方ごとに植栽しているのが特徴的でした。

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こちらも「漢方処方園」です。

園路は、芝生敷きで生えますが、それ以外のところは、これまでとは違って、砕石が敷き詰められていました。

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ここで面白いものを見つけました。芝刈り機?でしょうか?

直射日光で機会が熱くならないように、日陰植物に使われているのと同じように、

すだれを使って日よけがつくられていました。

ちょっと面白かったです。

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こちらも「漢方処方園」です。

ひとつの薬(漢方薬)になる(混ぜられる)植物が、ひとまとめにして展示・植栽されていました。

これらの植物から、この薬がつくられます、といったストーリーを感じる面白い展示方法でした。

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こちら(「漢方処方園」)が、京都薬用植物園の見学できるエリアの東端になります。

見学ルートの最後は、一般道に接しているため、このようなゲートが設けられ、普段は施錠されています。

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一般道を渡って、また薬用植物園の園内に戻ってきました。

研修棟(集合場所/案内開始場所)に戻る高台の道から、今通ってきた「中央見本園」の全景が見渡せました。

約2時間ほどかけて、ゆっくりと薬用植物園内を案内していただきました。

この日は天気も良く、青空に映える薬用植物園は、ガーデンとして見ても、とても美しいものでした。

薬草に興味のある方は、是非一度、「武田薬品・京都薬用植物園」を見学されてはいかがでしょうか?


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居場英則

『進化する庭、変わる庭』がテーマ。本業は街づくりコンサルタント、一級建築士、一級造園施工管理技士、登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。土面の殆どない庭で、現在約120種類のバラと、紫陽花、クレマチス、クリスマスローズ、チューリップ、芍薬等を育成中。僕が自身の庭を創り変える過程で気づいたこと。それは、植物の持つデザイン性と無限の可能。そして、都市部の限定的な庭でも、立体的な空間使用、多彩な色遣い、四季の植栽の工夫で、『風景をデザインできる』ということ。個々の庭を変えることで、街の風景も変えられるはず…。『庭を変え、街の風景を変えること』が僕の人生の目標、ライフワーク。ーー庭を変えていくことで人生も変えていくchange my garden/change my lifeーー

個人ブログChange My Garden

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