2018.9.27 / イギリスで訪ねた庭レポート
今年2018年の5月、世界的に有名な日本人ガーデンデザイナー、石原和幸氏のサポートメンバーとして、
イギリス・ロンドンで開催されたチェルシー・フラワーショーに、石原さんの庭を作りに3週間行ってきました。
作庭期間、約2週間、その後、フラワーショー開催中の庭のメンテナンスもさせていただくことになって、
都合3週間ほど、イギリス・ロンドンに滞在していました。
その間、作庭の合間、そして週末の休みの時間を使って、ロンドン市内や近郊に点在する、
世界的に有名なガーデンをいくつも見て回ることができました。
自宅でバラの庭を作り始めて6年、新たな刺激とクリエーション(創造)の源を探しに行く旅でした。
今回、こちらのディノスさんのブログコーナーで、僕が訪ねた12の庭をレポートする機会をいただきました。
月に1回づつ、1年をかけて、少しづつその訪ねたイギリスの庭をご紹介していこうと思っています。
ロンドン滞在は今年の5月。
日本ではバラの開花の最盛期ですが、日本より緯度の高いロンドンでは、ちょうど花の狭間。
チューリップや水仙などの球根植物が咲き終わり、バラの開花を待つ時期で、花が少なく少し残念でしたが、
その分、ガーデンそのものの構造など、いろいろ参考になる部分が浮き上がって見ることができました。
普段、仕事では建築や街づくりに関わっている身として、一般のガーデナーの方とはまた違った視点で、
ガーデンの特徴や庭づくりのアイディアやヒントなどをお伝え出来たたらと思っています。
どうぞお楽しみに。
さて、その記念すべき第1回は、ロンドン市内から地下鉄で30分ほどの場所にある、王立キュー・ガーデン。
正式には、キューにある王立植物園で、英語では、Royal Botanic Garden,Kew と表記するようです。
キューガーデンは、1759年に、リッチモンド宮殿併設の庭園として始まり、
その後、プラントハンターを世界に派遣して、各地から植物を集め、それらを園芸、庭園植物、食用、薬用、
生活資材としての活用を試み、第二次世界戦前は、世界に広がる大英帝国の植民地における植物経営の要とされた
歴史上、重要なガーデンであり、研究施設です。
キューガーデンは、イギリスにおけるその歴史的価値と、さらに人類の植物学の発展に果たした役割が評価され、
2003年にユネスコ世界遺産に登録されています。
そんな王立キューガーデンを駆け足でご案内したいと思います。
キューガーデンといえば、やはりこの大温室、パームハウス。
名前の通り、南国の植物、ヤシやパームを展示する温室です。
ヴィクトリア時代のガラス建築としても貴重な建築物です。
訪ねたのは、花の少ないイギリスの5月ですが、このパームハウスの前には、
アリウム・ギガンチウムの紫色の花とオレンジ色の花が色鮮やかに咲いていました。
パームハウスの正面出入り口のアップです。
美しい曲線が奏でる優美なガラスハウスです。
内部に入ると様々な熱帯植物が生い茂り、鬱蒼としたジャングルのようです。
通路の真ん中に鉄のグレーチングが敷かれているのですが
パームハウスの中を通り抜け、反対側の出入り口を出ると、正面に広がるのがこの風景。
どこまでも続くような芝生の道が、真っすぐ遥か彼方まで伸びています。
メインストリートを真っすぐ歩き、途中で少し左にそれる道を進むと、奥に見えてくるのが、
このパゴタ(Pagota)という塔。
中国風の塔がここにあるのは、少し違和感がありましたが、18世紀半ば、イギリスで流行したガーデンスタイル
なんだそうです。
パームハウスから真っすぐに伸びる道を見返すと、こんな感じに見えます。
両側の木々の切れ目にパームハウスのエントランスが、ひとつの大きな窓のように見えています。
こちらは、もうひとつの大温室、テンペレートハウス。
パームハウスが優美な曲線で構成されているのと対照的に、こちらは直線的なデザインの建物です。
この温室は1860年に建設されたヴィクトリア様式の建物ですが、大規模な改築に5年の月日を要し、
今年2018年5月に完成したばかりでした。
内部空間はこのようになっていて、広さ4880平米もあり、ボーイング747旅客機が3機入る大きさとのこと。
コーナーの螺旋階段で上部のデッキに上ることができるようになっています。
デッキから見下ろした風景がこちら。
前述のパームハウスより大きな内部空間は、温室というより体育館といった感じです。
なかなかこれほどのスケールの温室を体感することができる植物園はないのではないでしょうか?
デッキから見下ろした植物たち。
ここはオーストラリアコーナーで、放射状に広がる葉が美しい常緑で木立性の木生羊歯、ディクソニアの
重なり合う葉が上から見れるのが、とても素敵です。
園内には日本庭園も再現されています。
ジャパニーズ・ゲートウェイ(Japanese Gatway)と呼ばれる勅使門があり、
これは、京都・西本願寺
解説によると、この日本庭園は、勅使門を中心とした回遊式の枯山水庭園で、
日本の
赤花のツツジの鮮やかさがとても印象的でした。
こちらは、先ほど少し紹介した中国式の塔、パゴタ(Pagota)。
高さ約50m、八角形の10層の建物は18世紀半ばに建造され、
キューガーデンの中に現存する建物では最古と言われているそうです。
タワーに上ればロンドン市内が一望できるそうですが、
あいにく、ま
園内を歩き回っていると、面白そうなものが目に飛び込んできました!
森の木々の合間に、空中に浮かぶ回廊があります。
何だかテーマパークの中のアトラクションのように見えました。
これは、空中樹冠観察路(Treetop Walkway)という、地上18mの高さに設置された空中散策路。
普段、地上から見上げている大きな木を、鳥の目線で上から眺めるための施設なのです。
真横から、この空中回廊を見てみると、まさに森の中に佇む鳥か、木に上る動物になった気分を味わえます。
回廊を支える鉄(コールテン鋼)の柱が、まるで木のようで、森の中に美しく調和しています。
この地上18mの空中回廊へは、階段かエレベーターで上ることが出来ます。
コールテン鋼のフレームに張り付くように登り降りするエレベーター。
シースルーで華奢なデザインのエレベーターも、高所恐怖症には辛いかも。
空中樹冠観察路(Treetop Walkway)は、高さ20mほどの高木の間を縫うように、
大きな円を描いて設置されています。
このような体験ができる施設は、あまり日本では見かけたことがなく、とてもスリリングで楽しかったです。
童心に帰ったように、何周も回りました。
空中回廊は、こんなつくりになっています。
スチールのメッシュに木製の手すりが付いているだけのシンプルなもの。
少し揺れたりして、恐怖感も味わえます。
階段を下りながら、空中回廊を下から眺めてみると、こんな感じ。
人工的な構造物なのに、その柱やフレームなど、細かいところまで
デザインが行き届いていて、違和感なく自然に調和しているように感じます。
地上から空中回廊を見上げると、こんな風になります。
手すりのフェンスだけでなく床もメッシュで出来ていて、空が透けて見えます。
下から見上げた方が怖いかもしれませんね。
この施設の素晴らしいところは、人工的に作った巨大な構造物を、
自然の中に溶け込ませ、その存在感を消しているところが見事だと思います。
柱も丸い一本立ちのものではなく、木のような上に行くほど細くなり、
上部で3本に枝分かれさせているのが、とても奏功していると思います。
柱の粗大も、ペンキ塗りではなく、錆びたような仕上げのコールテン鋼。
色むらがあって、緑の木々や白い花とも素晴らしく調和していると思います。
こういった、細かいデザイン的な配慮がされているあたりが、キューガーデンの
キューガーデンたるところだと思います。
今回、キューガーデンの中で見た施設の中で、この空中回廊が、
個人的には最も感銘を受けた施設でした。
空中樹冠観察路(Treetop Walkway)に続いて、とても美しいデザインの橋を見つけました。
池を渡る橋ですが、S字状の美しいカーブを描いています。
対岸の森へと続く道も、同じようにS字カーブを描いて、この橋に連続しています。
池に映り込む橋の姿も相まって、息をのむような美しいランドスケープデザインです。
橋を渡ってみます。
余計なものをそぎ落とした、とてもシンプルなデザインです。
手すりのディテール(詳細)です。
真鍮のような金属を削り出して作った棒が、並んでいます。
このような美しい橋を見たことがありません。
キューガーデンの美意識、恐れ入ります。
こちらは、3つめの温室で、プリンセス・オブ・ウェールズの温室(Princess of Wales Conservatory)。
今は亡き、ダイアナ妃によって建てられた温室だそうです。
三角形がモチーフになった現代的なデザインで、これまでに見た2つの大温室とは趣きが異なります。
内部は、サボテンや多肉植物、熱帯植物やスイレンなどが展示されていて、
サボテンや多肉植物好きの方には、たまらないコレクションになっています。
最初のパームハウスと呼ばれる大温室のところまで戻ってきました。
パームハウスの裏には、ローズガーデンが作られています。
本場イギリスのローズガーデンを楽しみにしていたのですが、5月はまだ早いようです。
まだ蕾が固く、花は全く咲いていませんでした。
イギリスでは、バラの最盛期は、6月中旬頃だそうです。
残念ながら、5月中旬は一番中途半端な時期なのかもしれません。
チューリップや水仙などの球根植物が終わり、バラやクレマチスが咲く前で、
この時期、咲いている花が少ないです。
このあたりのロングボーダー花壇には、辛うじて、紫色のアリウム・ギガンチウムの花が咲いていました。
そして、最後に訪れたのがこちらの施設。
キューガーデンの最新施設で、ザ・ハイヴ(The Hive)。
ハイヴ(Hive)は、蜂の巣箱を意味する言葉らしく、小高い丘の上に突如現れる、この前衛芸術のような施設は、
まるで、蜂が巣箱の周りを群れて飛んでいるように見えます。
入口に向かって正面から見ると、こんな風になっています。
金属でできた四角い箱のような空間です。
近寄って見てみると、このような小さな金属のパーツの集合体です。
地下の出入り口から真上を見上げると、とてもメカニックな景色。
中央のガラスの床には、地上からアプローチした人の靴の裏が見えています。
蜂の巣箱の中から外を見ると、こんな風に見えるのかもしれませんね?
地上部に上がってみました。
外からは、四角い形をしいているのに、内部構造は球体。
何とも不思議な空間体験ができます。
中央でおどけているのが、筆者です(笑)。
球体の中心から真上を見上げた風景。
緑豊かなガーデンに来ていたはずなのに、何故かこの未来的な空間の中にいるという不思議体験。
キューガーデンは、伝統と革新、自然とアートが共存する素晴らしいガーデンでした。
最後は、何といってもキューガーデンのシンボル、パームハウス。
池越しに全体が入るように撮ってみました。
200年近く前に作られたとは思えない、近代的で美しい建物。
プロポーションが素晴らしく、白いフレームと半透明のガラスが緑と美しく調和しています。
訪れたのは、花の少ない時期でしたが、花はなくとも、十分にこの美しいガーデンを堪能することができました。
王立キューガーデン、僕にとって初めて訪れた本格的なイギリスの庭でしたが、多大なる刺激を与えてくれました。
是非、またいつかこのガーデンを訪れたいと強く思いました。
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