2019.2.20 / イギリスで訪ねた庭レポート
昨年の2018年の5月、世界的に有名な日本人ガーデンデザイナー、石原和幸氏のサポートメンバーとして、
イギリス・ロンドンで開催されたチェルシー・フラワーショーに、石原さんの庭をつくりに行ってきました。
作庭期間の約2週間、その後、フラワーショー開催中の庭のメンテナンスもさせていただくことになって
都合3週間ほど、イギリス・ロンドンに滞在していました。
その間、作庭の合間、そして週末の休みの時間を使って、ロンドン市内や近郊に点在する、
世界的に有名なガーデンをいくつも見て回ることができました。
自宅でバラの庭を作り始めて6年、新たな刺激とクリエーション(創造)の源を探しに行く旅でした。
こちらのディノスさんのブログコーナーで、僕が訪ねたロンドン近郊の12の庭をレポートさせていただく
ことなったこの企画、2019年に入っても、継続して記事を書かせていただいています。
今回はその第6回、英国王立園芸協会(RHS)が運営するガーデン、「ウィズレー・ガーデン」です。
英国王立園芸協会(RHS)は、200年の歴史を誇り、総裁はエリザベス女王自らが努める団体で、
今回、ガーデンデザイナーの石原和幸氏が10個目のゴールドメダルを目指してチャレンジされた
「チェルシー・フラワー・ショー」を主催する団体でもあります。
ガーデン大国、イギリス国内はもちろん、世界各国のガーデニング団体の最高峰の団体と言っても
過言ではないでしょう。
その英国王立園芸協会(RHS)がイギリス国内で直接管理する4つのガーデンのうちのひとつが、
この「ウィズレー・ガーデン」。
この僕の「イギリスで訪ねた庭レポート」の第1回目に紹介した「王立キュー・ガーデン」が、
植物文化の研究機関であるのに対し、この「ウィズレー・ガーデン」は、ガーデニングの参考になるモデル庭園や
ガーデニングのスタイルを提案するために作られた施設という位置づけです。
ショップやレストランなどの施設も充実していて、イギリス人に最も愛されているガーデンとして有名な場所です。
さて、この日は、チェルシー・フラワー・ショーの審査が行われる日で、我々サポートスタッフは休日でした。
サポートメンバーの何人かと連れ立って、ウィズレーガーデンを目指したのですが、その道中が大変でした。
車で行ければそう難しくない場所にあるのだと思いますが、我々のようなトラベラーは公共交通機関を使って
行くしかありません。
ネット情報を頼りに、鉄道を使ってKingston駅で下車、そこからなかなか来ない路線バスに乗って30分ほど。
路線バスは、いつの間に高速道路を走り出し、内心ハラハラしましたが、何とかウィズレー・ガーデンに
到着しました。
写真は、降りたバス停から歩道橋を渡って、ウィズレー・ガーデンに向かうところです。
こちらは、RHSウィズレー・ガーデンのエントランスです。
入り口は、RHSのメンバー専用の出入り口とゲスト(一般客)に分かれていて、
RHSのメンバーは無料で入ることができるようです。
ここで、改めてウィズレー・ガーデンについて説明しておきますと、
英国王立園芸協会(RHS)は、庭文化の普及も目的の一つとして、このウィズレーに最初の作庭の見本となる庭を
作りました。
手がけたのは、実業家で英国王立園芸協会(RHS)の会員であったジョージ・ファーガソン・ウィルソン氏。
1878年に約25ヘクタールの敷地に庭が作られ、その後、拡幅されて、現在は約100ヘクタールの広さを誇る規模に
なっています。
世界的に最高規模の植物コレクションを誇り、様々なスタイルの庭を見ることができます。
ウィズレー・ガーデンの名物とも言われる、約200mも続く「ロング・ボーダー」や、
日本の風景をテーマに改修された「ロック・ガーデン」の他、「ワイルド・ガーデン」、
「フルーツ・ベジタブル・ガーデン」、いくつかの小さな家庭向けの「モデルガーデン」、温室など、
様々なテイストのガーデンが作られています。
ガーデンセンターや、イギリス随一を誇るガーデングッズの品揃えを誇るショップなどを併設し、
「庭のテーマパーク」そのものです。
英国王立園芸協会(RHS)の総本山とも言うべき「ウィズレー・ガーデン」は、世界の園芸を愛する人々にとって、
まさに「園芸の聖地」のような場所と言えるでしょう。
もちろん、一日で全部を見ることはできませんので、駆け足で園内を巡りました。
その中で、いくつか心に焼き付いている風景やシーンをご紹介していきたいと思います。
では、「ウィズレー・ガーデン」の中へと歩を進めましょう。
まずは、この場所からご案内しましょう。
ウィズレー・ガーデンの一番の見どころと言われる「ロング・ボーダー」。
季節ごとのさまざまな植物や花が、約200mに渡って植えられています。
訪れたのは、まだ花の少ない5月下旬だったにも関わらず、所々に色鮮やかなシャクナゲの花が咲いていました。
緩やかな傾斜の芝生の道が、遥か彼方までつながっています。
訪れている人も、大人が目立ちます。
来訪者が、熱心に興味のある植物をチェックされてされていました。
ボーダー花壇には、様々な植物が植えられていますが、ひときわ目を惹いたのがこちら。
宿根草のギボウシの大株。
青い葉がとても見事なことに加え、その横の銅色の葉が、ギボウシの青を引き立てています。
ギボウシの周りにも様々な樹形の低木や宿根草が植えられ、まさにパッチワークのよう。
とても美しいボーダーガーデンです。
「ロング・ボーダー」の緩やかなスロープを上り切ったところに開けた広場。
ここには、タンポポの綿帽子を金属で模したオブジェが設置されていました。
綿帽子が弾けて、空に舞う姿など、なかなかリアルな仕上がりです。
さりげなくアートと共存するガーデンって素敵ですね。
タンポポのアートが置かれた丘の頂上から、ロング・ボーダーと反対側に大階段を下っていくと、
そこには、ひときわ大きなガーデンが広がっています。
ここは、新しい品種の植物を育てる圃場のような場所でした。
植物の分類別に整理整頓された実験農場のような場所です。
イギリスの園芸文化の奥深さを感じさせてくれます。
こちらは、その圃場に面した斜面を活かしたガーデン。
様々な植栽が、見事な配置で植えられています。
また、園内では、多くのガーデナーが、植物のメンテナンスをされているシーンに出くわします。
管理が行き届いているのが良く伝わってきます。
こちらには、ユーフォルビアが植えられていました。
最近のトレンドなのでしょうか?、他の有名ガーデンでも、ユーフォルビアの植栽をよく見かけました。
こちらは、青い花を咲かせるセアノサス。
我が家の庭でも栽培にチャレンジしたことがあるのですが、高温多湿の日本ではなかなか育てるのが難しく、
枯らしてしまいました。
イギリスでは、乾燥した気候のためか、どこでも旺盛に育っていて、羨ましい限りでした。
セアノサスのような青い清々しい花が、満面に咲く風景はとても素敵です。
こちらは芝生を敷き詰めた広場。
ここでも面白い演出がされていました。
芝生に波型の模様が出るように、刈り込まれています。
こうした遊び心も、園芸の本場、イギリスならではです。
ウィズレー・ガーデンを訪れたのは、昨年の5月下旬。
日本より緯度の高いイギリスでは、バラの開花にはまだ少し早く、チューリップなどの球根植物は旬を過ぎ、
ちょうど花のない過渡期です。
ウィズレー・ガーデンでも、まだバラも咲いておらず、全体的に花の少ない寂しい状態でしたが、
ここには、旬は過ぎてしまったものの、まだ紫色の花が美しく咲き乱れるアリウム・ギガンチウムの花畑が
ずっと奥の方まで広がっていました。
こちらの花壇には、品種名が分からないのですが、黄緑色の葉がとても美しい木が植えられていました。
手前の中木だけでなく、奥にもまた別の高木が、同じような黄緑色の葉を茂らせています。
花はなくとも、葉の色だけでも十分楽しめるガーデンです。
こちらは、確か、ハーブを植えたガーデンではなかったかと思います。
サークル状に切り取られた花壇が、いくつも連なり、そのサークルの中で、様々な葉色のハーブが
香り豊かなに育っていました。
ハーブ以外にも、家庭菜園のような「ベジタブル・ガーデン」なども作られており、
そのまま真似できるようなサンプルガーデンとなっているところが、このウィズレー・ガーデンの良いところです。
こちらは、山野草を使って、垂直の壁面を飾るように彩るガーデンです。
自然の石をナチュラルに積み上げ、その隙間に山野草が咲き乱れる、ガーデナー垂涎の風景です。
こちらは、温室の中に再現されたガーデン。
高山植物などを育てるために、温室ならぬ「冷室」として使われています。
アルプスなどの高いところに咲く花は、イギリスの気候では暖かすぎるためか、ガラス張りの建物に入れた上で、
扇風機やクーラーで温度を下げて管理しているそうです。
ジオラマを見ているかのようなガーデンです。
こちらは、盆栽を並べた庭。
チェルシー・フラワー・ショーのパビリオンの中でも、クオリティの高い盆栽を扱うブースを見ましたが、
イギリスでも日本の盆栽は、ブームになっているのかもしれませんね。
切株のような不安定そうにみえる台の上に、盆栽が無造作に置かれているのが少し気になりますが、
日本の園芸文化や美意識が、海外でも評価されるのは嬉しいことですね。
盆栽の庭のある場所から、奥に下っていくと、斜面を利用者多ロックガーデンが現れます。
斜面地をたくみに利用して、滝を作り、水を流して水景を作っています。
当初のロックガーデンから変わり、現在は、モミジや松を使った日本庭園風につくりかえられているようです。
日本庭園風のロックガーデンの横には、牧草地のようなのどかな風景が広がっていました。
まさにイギリスの田園風景を思わせる、野原です。
その脇には、川が流れ、橋も架かっているのが見えます。
近寄ってみましょう。
小川に掛かる木製の橋です。
この橋には、フジの花が誘引され、ちょうど薄紫色のフジの花が満開で、とても美しかったです。
童話に出てくるワンシーンのようです。
ここからは、ウィズレー・ガーデンで見た美しいシャクナゲやツツジの花をオンパレードで紹介していきます。
バラの開花にはまだ少し早い時期に訪れたため、少し残念な気持ちでしたが、
代わりに、この時期、最も美しく咲いていたのが、シャクナゲ。
僕の地元・奈良では、室生寺など、古いお寺の境内にひっそりと咲いている、和の庭のイメージが強い植物ですが、
ここ、ウィズレー・ガーデンで咲くセイヨウシャクナゲの見事な姿を見て、シャクナゲの印象が変わりました。
この鮮やかなピンクで咲く、シャクナゲ。
森の中でひと際目立っていました。
今回(2018年)のチェルシー・フラワーショーの「ショーガーデン部門」でベストガーデンに選ばれた庭にも
これと同じような、とても鮮やかなピンクのセイヨウシャクナゲが植えられていました。
ある種、イギリスの庭を象徴する植物のひとつと言えるのではないかなと思います。
同じく、森の中で見つけた淡いクリーム色のセイヨウシャクナゲ。
これも、シャクナゲのイメージを根底から覆すようなインパクトがあります。
多花性で、素晴らしい景観を作ってくれます。
こちらは、ツツジの一種ではないかと思います。
日本で見る、赤いヤマツツジや、ピンクのサツキなどとは全く違う、深い赤がとても美しいツツジ。
こんな大株に育って、森の中での存在感が半端ないです。
こちらは、オレンジ色のツツジ。
日本では見たことがない色です。
こんなツツジがあれば、是非庭で使ってみたい、そう思わせるとても美しいツツジでした。
このオレンジ色のツツジは、園内の至る所に植えられています。
しかもこんな大株で。
樹形も美しく、多花性なので、こんなのが一本庭にあるだけで、庭の風景が大きく変わるくらいの存在感です。
そして、僕がこのウィズレー・ガーデンで、最も気になったのがこちらのツツジ。
ぼんぼりのように丸く固まって咲いているのです。
少し離れて見ると、こんな感じで森の中で咲いていました。
こんな咲き方のツツジは見たことがありません。
この美しいツツジの前で、しばらく言葉を失い、立ち尽くしてしまいました。
まだまだ紹介しきれないほどの美しいシャクナゲやツツジが、森の中で群生していました。
バラはまだ咲いていなかったけれど、このシャクナゲやツツジを見れて、十分満足しました。
園内西側には、グラスハウスという温室があります。
温室の規模は、世界遺産にもなっている「王立キュー・ガーデン」にある温室と比べるとやや小さいですが、
ここには、さまざまな熱帯雨林気候の場所でしか見られない、貴重な植物や色とりどりの花々が集められています。
造園家のトム・スチュワート=スミス氏がデザインしたこの新しい温室は、白い円弧型のフレームが重なって
出来た独特フォルムが印象的です。
しかも、池の中に浮いているような演出がとても秀逸です。
内部には、世界中から集められたサボテンや多肉植物、熱帯植物などが満載です。
ゆっくり見る時間もなく、駆け足で巡りました。
最後に、ウィズレー・ガーデンを象徴する風景の場所に出ました。
よく手入れされた「キャナル・ガーデン」は、長方形の池を中心に左右対称にデザインされ、
水中のスイレンまでも左右対称に整っています。
背景の大きな建物は、19世紀アーツ・アンド・クラフツ様式で建てられたものらしく、
第一次大戦中に、既存の材料を再利用して作られたものだそうです。
英国王立園芸協会(RHS)の庭園である「ウィズレー・ガーデン」は、100年以上の歴史を持ち、
植物のコレクションにおいて、世界的に最高の規模と質を誇っているそうです。
冒頭にも書きましたが、イギリス人に最も人気のあるガーデンのひとつが、この「ウィズレー・ガーデン」。
プラントハンターの働きによって、多くの植物がイギリスに持ち込まれ、元々自生の植物が少なかったイギリスに
園芸文化が深く根付いた理由の一つが、この英国王立園芸協会(RHS)の存在です。
植物分類はキュー・ガーデン、植物の庭での使い方はここウィズレー・ガーデンと、
2つの庭はイギリスの園芸文化を底辺で支える両輪となっています。
ロンドンに行かれた際には、是非一度訪れていただきたいガーデンです。
■おすすめ特集