2023.10.25 / 県立奈良高校・創立100周年記念・中庭プロジェクト
前回のブログ記事で、僕の母校の県立奈良高等学校が、今年創立100周年を迎え、その記念事業の中核事業として
新たに移転した朱雀校舎の中庭を整備するプロジェクトのガーデンデザインを僕が担当させていただいていると、
お知らせしました。
今回は、この奈良高校の創立100周年記念事業の中庭プロジェクトの計画(デザイン)について、
もう少し詳しくご紹介しようと思っています。
これまでに何度か、高校のOB会の総会などで、このガーデンプロジェクトの詳細をプレゼンしてきたのですが、
そのプレゼン資料の一部を使って、以下、ご紹介いたしたいと思います。
どんな経緯があって、どんな思いでこのガーデンをつくるのか、少し長くなりますが、ご興味のある方は、
ぜひ読んでいただけましたら幸いです。
奈良高校は、今年2023年に創立100周年を迎えます。
前進の奈良中学校として、1924年に、古都・奈良の中心部にほど近い、佐保川沿いの場所に創立されました。
その後、奈良高等学校に改称され、近くの「法蓮」という場所に移転しました。(旧・法蓮校地)
奈良盆地の北側に広がる「平城山(ならやま)丘陵」の麓に立地し、緑豊かな環境に抱かれ、校舎の屋上からは、
東大寺・大仏殿や興福寺の五重塔が見えるような素晴らしい場所でした。
その後、2022年の県の高校適正化計画の一環として、奈良高校は、平城高校の跡地(朱雀校地)に移転しました。
上の地図を見ていただけると分かりますが、平城山丘陵の南の麓から北側へとお引越ししたことになります。
こちらが、僕が高校生の頃に通っていた旧校舎、法蓮校地の中庭です。
僕は、奈良高校が創立60周年を迎えた時に、奈良高校に入学しました。もう40年も前のことです。
その10年前、創立50周年の時に、奈良高校の卒業生(OBOGの方々)の寄付で、この中庭がつくられました。
在学時はおろか、卒業してからも、ついこの前まで、そんなことすら知らなかったのですが、
今回、創立100周年記念事業として、新校地に新しい庭をつくることになり、50年前にこの庭がつくられた経緯を
詳しく調べることから始めました。
この中庭に置かれた2体のブロンズ像は、ギリシャの哲学者、プラトンとアリストテレスです。
この立像のもとになったのが、こちら↑、バチカン宮殿内にある画家、ラファエロが描いた
「アテネの学堂」という絵画です。
プラトンとアリストテレスを中心に、様々な人が集い、学ぶ、まさに学舎(アカデミア)を表現した絵画です。
この絵の中心人物のプラトンとアリストテレスを切り取り、立体化(彫像化)した立像が、
奈良高校の旧校地(法蓮校地)の中庭に設置されたのです。
プラトンとアリストテレスは、師弟関係にありますが、その主義主張は対立的で、
理想主義のプラトンに対し、弟子のアリストテレスは現実主義。
二項対立的な二人が「対話」を通した相互理解により、
「止揚」された「真知」の共有を行うことを表現したものが、
創立50周年記念で作られたこの「アテネの学堂」です。
一方で、古都・奈良には多くの有名寺院がありますが、そのお寺の僧が、師の僧侶の指導のもと、互いに対話し、
討論して正しい道理を竪てることを「竪義(りゅうぎ)」と言います。
プラトンとアリストテレス立像が立つ、古墳のような地形の植栽帯、その周りの池、噴水などを称して、
「竪義の庭」と命名されました。
この創立50周年でつくられた庭は、「アテネの学堂」と「竪義の庭」というダブルコンセプトの庭であったのです。
西洋的な「対話の空間」と、東洋的な「対話の空間」がハイブリッドに融合した「学びの空間」が、
奈良高校の創立50周年を記念して、旧・法蓮校舎の中庭につくられました。
次に、中庭空間の大きさについて、比較してみます。
旧・法蓮校地の中庭は、幅約25m、奥行き約22m、面積として約550㎡(約170坪)という
意外とこじんまりした空間でした。
この空間の中心部に、古墳状の丘をつくるように造成され、そのトップに、立像が設置されていました。
つくられた当時は、この立像と向かい合うことで自分自身を見つめなおす庭として計画されたのかと思いますが、
中庭の中央に古墳状の庭があることで、中庭コンサートなどの学生の活動の場としては、
いささか使い勝手が悪かったようです。
こちらが、2022年に移転した新校舎・朱雀校地(旧・平城高校)です。
平城ニュータウンの住宅街の中に立地しています。
昨年2022年の秋、旧・法蓮校地にて創立100周年記念事業の一環として「ホームカミングデー」が実施されました。
その時が、旧校地で見たプラトン・アリストテレス像の最後の姿でした。
その後、プラトンとアリストテレス立像は、新校地(朱雀校地)へと移転されました。
写真は、正面玄関前に置かれたプラトン・アリスとテレス像です。
現在は、仮設置状態で、中庭整備後に、再度この立像が中庭へと移転されることになります。
旧校地では、石段の上に高く掲げられていたため、ずいぶん大きな像に見えましたが、
地面の上に設置された像は、ほぼ等身大(高さ1.8m程度)で、意外とこじんまりした感じです。
こちらが、新生・奈良高校の朱雀校地の配置図。
4階建ての本館(北棟)と南棟、3階建ての東棟と西棟に囲われた、まさに中庭が、
今回の創立100周年記念事業の中核事業として整備する場所です。
こちらは、整備工事が始まる前の朱雀校地の中庭空間。
以前の法蓮校地の学舎はテラコッタ色の渋い校舎でしたが、朱雀校地の建物は真っ白い外壁のモダンな建物です。
中庭は、以前の平城高校の時のままで、シンメトリーに花壇がデザインされた空間でした。
この朱雀校地の中庭空間の広さは、東西が約42m、南北に約29m、面積でいうと約1,200㎡(約370坪)も
あります。
旧校地の中庭の約2倍もある、非常に大きな空間なのです。
しかも、4階建ての南棟は、季節によっては(秋冬には)、中庭にかなりの日陰をもたらすことが懸念されました。
旧校地の2倍の広さをもつ新しい校地の中庭に、前の校舎から移設するプラトンとアリストテレスを
どのように設置するかは、非常に難しい課題でした。
しかも、立像は思った以上に小さく、この立像を中庭のどこに設置すべきか、非常に頭を悩ませました。
また、今回の創立100周年の庭では、創立50周年の際につくられた庭と違って、
モニュメント性も重要ではありますが、学生の活動や地域の方々との交流の場所としての機能が求められました。
こちら↑が、その立像の配置パターンを検討したイメージ図です。
シンボリックな立像の設置場所は、中庭のどの位置でも良いわけではなく、シンボリックであるが故、
その設置位置にも、意味を持たせる必要がありました。
日照条件などの環境特性にも考慮しつつ、シンボリックであり、かつ、庭としての美しさはもちろん、
要求された複合的な機能性を確保しつつ、明確なコンセプト(ストーリー性)があって、
奈良高校らしいインテリジェンスが感じられ、寄付を募るOBOG他、関係者の共感を得られるガーデンであるべき
という、非常に高い目標が課されました。
検討の結果、4番めの配置案「楕円配置」をベースにすることにしました。
ガーデンデザインの大方針として、「楕円構造の庭」を掲げました。
楕円形とは、「2つの焦点を持ち、その焦点からの距離の和が一定」という、数学的な原理があります。
この「2つの焦点」に、何か意味を持たせることはできないだろうか、というところから、
今回のガーデンの設計(デザイン)はスタートしました。
また、楕円形の庭は、日本の古典的な庭にはありませんが、ヨーロッパ、特にイタリアでは、
庭ではありませんが、古代ローマ時代には、コロッセオという闘技場がつくられ、
ルネッサンス期には、画家であり、建築家でもあるミケランジェロが、ローマのカンピドリオの丘に
「カンピドリオ広場」を設計し、バチカン市国のサンピエトロ大聖堂の前にも、
建築家・ベルニーニが設計した楕円形の庭(広場)、サンピエトロ広場が造られました。
今回の創立100周年記念で整備する庭は、これらの西洋の庭からインスピレーションを得た庭なのです。
こちらは、僕の奈良高校時代の同級生で、現在、奈良高校で数学の教鞭を執っているF先生が描いてくれた
楕円がつくる図形です。
2つの焦点から伸びる線の集合体です。
ガーデンの設計を行うにあたり、このF先生が描いてくれた楕円図形に大変刺激を受けたのです。
楕円構造の庭につくる「2つの焦点」にストーリーというか、意味を持たせることにしました。
先にご紹介した、創立50周年記念で作られた中庭が、プラトンとアリストテレスという
同じギリシャの哲学者でありながら、その考えが全く異なるものであるにも関わらず、
そこに「対話」を通して「真知」を追求するという姿を空間化したガーデンでした。
つまり、上のプレゼンシートにも書いているように、西洋⇔東洋、師⇔弟子、先輩⇔後輩、過去⇔未来、
世界⇔日本、宇宙⇔地球、社会⇔自分、そして50周年⇔100周年といった、2つの対峙するものが
関わり合いを持ちながら、関係性を見出すメタファー(暗示するもの)として、
この楕円構造の庭にできる「2つの焦点」に意味を持たせることにしました。
それらのことをすべて盛り込んで空間化したものが、今回の創立100周年記念で作る中庭なのです。
中庭を楕円形で盛り土し、そこにスタンド(ベンチ)を設けています。
中央の「プラザ」と呼ぶ広場は、コーラス部や吹奏楽部なでの演奏会、ダンス部等、学生の活動のステージとして、
また、地域との交流の場としても機能します。
スタンドの外側、中庭の四隅には植栽を配置し、花と緑に包まれた中庭空間を構成します。
2つある焦点のうち、奥(左側)の焦点に、50周年記念でつくられたプラトン・アリストテレス立像を設置。
もうひとつ(手前、右側)の焦点には、創立100周年記念でつくる新たなモニュメント「羅針盤」と呼ぶ、
「石板プレート」を設置する予定です。
この2つの焦点の一方である「羅針盤」に立つ時、正面に見えるプラトン・アリストテレス像と
向き合うことができます。
では、この「2つめの焦点」が、なぜ「羅針盤」なのか?
羅針盤は、古代中国で発明された、紙、活版印刷、火薬とともに、「中国四大発明品」とされています。
「羅針盤」は中国からヨーロッパに伝わり、列強の国々は、「新しい大地」を求めて大航海時代を迎えました。
そのような意味から、「羅針盤」は、奈高生が未知なる世界へ飛び込むために不可欠なアイテムの「象徴」と
位置づけています。
楕円の2つの焦点の一方から発せられる光は、楕円の壁に反射して、必ずもう一つの焦点に導かれます。
創立100周年記念でつくる「羅針盤」は、奈高生が、自分自身の進むべき道を、
自身や師と対話しながら見つけるための装置でもあるのです。
そして、羅針盤を手掛かりに、世界に向けて歩き出した後、どこへ向かおうと楕円の壁に反射した光は
必ず、もうひとつの焦点である奈良高校の「原風景」ともいえる、プラトン・アリストテレス像へと戻ります。
自らの進むべき道に迷い、壁に阻まれることがあったとしても、青春時代に師や友とのかけがえのない時間を
過ごした自身の原点、奈良高校へと回帰し、自らの進む道や目標を見つめ直すきっかけになるはずです。
こちらが、今回の奈良高校・創立100周年記念事業で整備する中庭の完成予想CGパースです。
中庭の中央に、様々な活動ができる広場(プラザ)を備え、その周囲には階段状のスタンド(ベンチ)が、
楕円形に配置されます。
そのスタンドの更に外側、校舎の建物際に、様々な樹木(高木、中低木)や宿根草が植栽されます。
花や緑に包み込まれるような、美しく、そして安らぎを感じるガーデンが出来上がる予定です。
こちらは、旧校舎(法蓮校地)での奈良高校の文化祭(青丹祭)のワンシーンです。
僕達が学生の頃には、プラトン・アリストテレス像に触れることなど考えられない、
神格化されたものだったのですが、今の学生たちは、もっとフランクな距離感で、
プラトン・アリストテレス像と接しています。
この写真の写真のように、文化祭の時には、若い感性で仮装されていたりします。
そんな現状に即したプラトン・アリストテレス立像の在り方(設置方法)を考えました。
旧校舎の時のように、石積みの上に高く持ち上げるのではなく、もっと身近な存在として接することができるように
したいと考えました。
その手掛かりは、創立50年周年の時に、この銅像が造られた元になったラファエロの絵画「アテネの学堂」に
ありました。
アテネの学堂に描かれた、弟子たちに囲まれるプラトン・アリストテレスのように、同じ段数の階段の上に、
立像を設置することとしました。
それの考えを空間化したものが、こちら↑です。
4段の階段の上に、プラトン・アリストテレス像を設置し、その周囲の階段に立って集まれば、
ラファエロの描いた「アテネの学堂」に近い構図で写真撮影(卒業写真など)もできるようにしました。
また、立像の手前の広場(プラザ)の床面も、ラファエロの「アテネの学堂」に描かれた
大理石で作られたパターンを、タイルで再現しています。
植栽計画のテーマは、「百花繚乱」です。
奈良高校の校風は、「自主創造」。
個々人の個性を重視した、自由でフランク、そしてクリエイティブな校風です。
創立100周年の記念のロゴマークやスローガン(『百の歴史 百の個性』)も、在校生が考えたものです。
そして、今回のガーデンの植栽計画は、100周年の百と掛けて、「百花繚乱」をコンセプトに掲げました。
「百の個性が咲き乱れる庭」というテーマで、個性的な植栽計画を行いました。
こちらが、植栽計画図です。
一枚の図面に、高木、中低木、宿根草の配置を表現したものです。
校舎南館(4階建て)による日陰の影響も考慮しつつ、高木については、同じ木の繰り返しにならないように、
様々な樹木を植栽しています。
中庭の西側(プラトン・アリストテレス立像の後方)の植栽ゾーンには、モミジ・カエデ類を集約していますが、
ここでも、同じ品種の木は入れずに、葉の色や形、紅葉なども考慮し、より複雑な風景を作れるような植栽配置を
行っています。
植栽計画にあたっては、東洋の造園手法として、「四神思想」、「陰陽五行説」、「作庭記」などを
参考にして計画しています。
中庭を囲む四方の校舎がちょうど東西南北に正対していることっもあって、中庭の方位に合わせて
「四神」(青龍、朱雀、白虎、玄武)にちなんで、花の色を極力合わせたり、
「陰陽五行説」(木火土金水)にちなんで、場所性を意味づけたり、
世界最古の造園指南書と呼ばれる、平安時代に編纂されたとされる「作庭記」に書かれているように、
「東の花の咲く木を植えよ、西にモミジを植えよ」という定説に基づいて、樹木の配置を行っています。
こちらが、中庭の断面展開図(長辺(東西)方向と、短辺(南北)方向)です。
植栽した初期の頃は、まだ樹木は小さいのですが(コストの関係で、かなり植栽は小ぶりになってしまいました。)
数年経てば、中庭を包み込むように樹木も成長してくれると思います。
実は、今回の創立100周年記念の中庭整備プロジェクトでは、当初、照明計画を盛り込んでいました。
学校側から、夜間にも学生の活動ができる中庭を作りたいという話がありました。
文化祭(青丹祭)の前夜祭というのが僕らの学生の頃からありまして、夜に学生よる様々なイベントが行われます。
そんな前夜祭のイベントを盛り上げるような、ライトアップされた中庭を作りたいと、
照明デザイナーにも協力を要請し、中庭を美しく照らし上げる照明プランを作成しました。
楕円形の2つの焦点に位置に設置された、プラトンとアリストテレス像や、「羅針盤」と呼ぶ石材プレートには
校舎の屋上からビーム光でライトアップします。
中央の広場(プラザ)では、演者を浮かび上がらせるようなライティングを設計しています。
それ以外にも、楕円形のスタンド(ベンチ)に沿って足元を照らしたり、周囲の樹木を下からアッパーライトで
照らし上げるようなライティングデザインを用意しています。
しかし、残念ながら、大阪万博のパビリオン建設問題と同様に、昨今の建築費の高騰が影響して、
現時点では、この照明計画に沿った照明工事は、今回の創立100周年記念事業では実現できなくなりました。
先行配管はしてあるので、将来的には、この照明プランに基づいて照明器具を設置すれば、
この夜間景観は実現することができます。
もしくは、今回の創立100周年記念事業で、多くの寄付金が集まれば、一気に実現できる可能性も
あるかもしれません。
そんなことで、僕の母校、奈良県立奈良高等学校の創立100周年記念事業の中庭プロジェクトの
設計デザインについて、詳しくご紹介させていただきました。
既に、お盆明けには工事に着手しておりまして、来年(2024年)の春(3月末予定)には、
この中庭が完成する予定となっています。
今後、中庭の工事の進捗状況なども、こちらのブログでご紹介できればと思っております。
乞うご期待ください!
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【 奈良高校・創立100周年記念事業について 】
今回の奈良高校・創立100周年記念の中庭プロジェクトは、50年前の創立50周年の時と同じく、
OBOG(卒業生)をはじめとした、様々な方々の寄付によって創られる事業になります。
「奈良高校 100周年記念特設サイト」も、2023年9月1日よりオープンしております。
[ 奈良高校 100周年記念特設サイト] は、こちら ⇒ 奈良高校 創立100周年 (narahs100th.jp)
創立100周年を機に、ますます発展する奈良高校へご支援いただけましたら幸いです。
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