「1cm」が部屋を劇的に変える? スキマ家具の深すぎる世界
<このストーリーを話したひとたち> 藤井 一雅さん 株式会社フジイ 代表取締役社長 川井 理恵 ディノス 家具バイヤー日本の狭い住空間だからこそ生まれた「スキマ家具」。私たちの日常に何気なく浸透し、当たり前の部屋の風景となったこのアイテムが誕生する背景には、実は、開発者たちの知られざる熱い思いがありました。ディノスの家具づくりの長年のパートナーである株式会社フジイの藤井一雅さんと、入社からずっと家具一筋のディノスのバイヤー・川井理恵が、意外にも深すぎる知られざるスキマ家具の世界について語り合います。
“猫が入るだけの場所”は、
スキマ家具にぴったりだった!
これまで株式会社フジイと数々のスキマ家具を開発してきた川井にとって、一番印象深かったのは「コーナー収納」だそう。藤井さんも頷きます。
「スキマ家具といえば、何かと何かの間に設置するものと思いがちですが、目を付けたのはいわゆる部屋の『隅っこ』。ここを収納に活かすという視点は目からウロコでしたね。技術的にも難しかったですし、『作っても売れないのでは?』という声も社内ではありました(笑)。ディノスさんとだからできたことだと思います」
川井はこれまで多くのお客様宅を訪問してきましたが、部屋の隅を見て「なんともったいない!」と感じることが多かったそう。通常、部屋の隅の一方の壁ぎわに収納を置くと、開閉のためその手前には何も置けなくなりますが、これをどうにか隅90度を全て収納スペースにしてしまおう、という発想でした。
「引き出しがぶつかり合わない角度など、高いレベルの設計技術が求められましたが、フジイさんはさすが、一発でサンプルを作ってくださいました」
このコーナー収納はヒットし、今も売れ続けています。お客様からは、これまで部屋の隅は『埃が溜まるだけの場所』『猫が入るだけの場所』だったのに、この収納のおかげで劇的にくらしが変わった! という声も。部屋のあらゆるデッドスペースを見出す観察力こそが、ロングセラー商品の誕生につながったのです。
いつの時代も絶えることない
収納の悩み…
藤井さん曰く、お客様へのアンケート等でくらしの悩みをたずねると、どの時代もトップに必ず「収納に関する悩み」がランクインしているのだとか。これは狭い住空間をやりくりしている日本人ならではと言えそうですが、だからこそ、収納はくらしにおける普遍的かつ最大のテーマなのかもしれません。
意外にも、「私は片付けが苦手なんです(笑)」と川井。「Instagramで見かけるような、ポールをうまく使ったお洒落な壁面収納などができるタイプじゃなくて。だから、まさに私の悩みがそのまま、1cmまでこだわり抜く商品開発につながっています」
自社でも1cm単位のサイズオーダー家具「すきまくん」を手掛ける藤井さんは、「21cmの家具」のオーダーが入った時のことを振り返ります。
「20cmでもいいのでは? と不思議になりましたが、聞いてみると、『タオルを四つ折りにしたときにちょうど入るのがこのサイズ』とおっしゃっていました。それから、『アルバムの奥行きが32cmなんだけど、内寸が31cmまでの家具しか見つからない。どうにかあと1cm増やしたものが作れないか』というオーダーもありましたね」
スキマ家具は
心のスキマも埋めていく
「刺さる人には刺さる!」とニッチ過ぎてもニーズを追求する商品開発の姿勢が、結果的に多くの多様なくらしを豊かにすることに繋がっているのが興味深いところ。藤井さんは、スキマ家具で部屋がうまく片付くことで、くらしにもたらされる意外な効果を紹介してくれました。
「『部屋が片付いたおかげで気持ちがスッキリしました!』『子どもが自分で片付けができるようになりました!』というお声もあって、ただ『片付く』ということにはとどまらないメリットがあると、お客様に教わりました」
「お客様からお喜びの声を聞くと、ニッチでも作って良かったと、心から思います」と川井も力説。「日本の家はスペースが限られているので、普通サイズの収納が置けない…と悩んできた方々が多い。スキマ家具は、そんな心のモヤモヤなどの『スキマ』も埋めることができるのだと確信しています」
物理的な片付けだけでなく、心にもポジティブな影響を与える可能性を持っているとは! ピッタリ入って心もスッキリ!まさに「神は細部に宿る」を体現するような、奥深すぎるスキマ家具の世界でした。