服に悩む50代からが「もっと楽しめる!」とぶれずに伝えてきたファッション哲学
<このストーリーを話したひとたち> 平野 貴臣さん 株式会社ダイアモンドヘッズ 小池 彩乃 ディノス DAMA collection編集長20年ほど前、50代ファッションのお買い物場所といえば百貨店の3階4階が定番。しかし、なんだか一気に「おばあちゃん」の装いに......。そんな着る服に悩む女性たちに向けて誕生したのが「DAMA collection」でした。デザインやパターンのクオリティや、従来の通販ではあり得なかったファッション誌のようなカタログに込められた、作り手たちの願いとは? ディノスのDAMA collection 編集長の小池彩乃と、ディレクターの平野貴臣さんが、DAMAの歴史から生まれた新たなファッションの可能性を紐解きます。
「あこがれ」と
「リアル」の架け橋
これまでファッションを謳歌してきたはずなのに、50歳に差し掛かり、突然、「着る服がない」「どこで買えばいいのかわからない」という状況に……。2005年「DAMA collection」が誕生した背景には、ディノスの担当者自身のそんな等身大の悩みがありました。
「だったら私が着たい服を作ろう!」というモチベーションから始まったブランドだからこそ、お客様のペルソナを徹底的に練り上げてきたのが強みだと小池は語ります。
「当社にいただくお客様からのお声のほか、座談会でご意見を伺うこともありました。そして、様々なカテゴリーの女性像に合う商品を作っていったんです。『女性の社長が職場で着る服』とか、『その社長がオフで着る服』とか」
この年齢の女性たちが何に困り、どんな服を求めているのか、リアルな声を拾い続けてきたことがブランドへの支持に繋がりました。立ち上げからカタログ等の制作に携わってきたディレクターの平野さんは、DAMAは、「あこがれ」と「リアル」の架け橋になったのでは、と振り返ります。
「モード誌はあこがれを喚起させますが、ハイブランドをみんなが楽しめるわけではない。じゃあ、ハイブランドではなくとも、いい素材でしっかりしたパターンの服がどこで買えるのか? 昔は選択肢がなかった。DAMAはちょうどそのゾーンに届いたのだと思います」
従来のカタログでは
あり得ない!?
「僕はディノスの担当者さんとかなりぶつかってきたんです(笑)」と、感慨深げに18年前を振り返る平野さん。
「その一番の要因が “見せ方”でした。通販では試着せず買っていただくので、カタログではディテールをしっかり見せるのがセオリーだったんです」
そのため、朝日なら青っぽく、夕日なら赤っぽくなる自然光の写真は、ファッション誌であれば光の色込みで世界観を演出しますが、服の色が伝わらないからと、通常通販カタログでは歓迎されません。
「あるロケの際、夕方になったので『今日はもう撮れないね』とディノスの担当者の方が言ったんです。でも『これは絶対に可愛くなる!』と、きれいな夕日が沈む海岸で、ワンピースを着たモデルさんがパッと走ってくる様子を撮影しました。ピンも合ってない、従来のカタログではあり得ない撮り方でしたが、そのワンピースがものすごく売れたんですよね」
今やDAMAといえば、通販とは思えないファッション誌のような装丁のカタログがトレードマークですが、それもトライアンドエラーの賜物だったのです。
服に自分を合わせるのではなく、
自分に服を合わせる
また、平野さんはDAMAが発信してきたメッセージについてこう語ります。
「本来は、50代は人生の通過点に過ぎないはず。でも、昔はそのタイミングでファッションを諦めてしまう人が多かった。それに対してDAMAは『絶対そうじゃない!!』と伝え続けてきたと思います。いくつになってもファッションは楽しい!と、これからも発信していければ」
30代初めにDAMAの担当となった小池が、「間もなく、私も“DAMA世代”、50代突入です(笑)」と話すと、「もうそんなに時間経ちました!?(笑)」と驚く平野さん。ファッションの楽しみ方の変化を小池自身も体感しています。
「肌質も変わり、この色似合わなくなってきたな、と思うこともあります。でも逆に、昔は似合わなかった色や丈がしっくりくる、という嬉しい発見も多い。見た目だけでなく、振る舞いや、滲み出る雰囲気全体で『なんだか素敵ね』と言ってもらえるのが50代だと思います。いろんな服を着てきた経験があるからこそ、自己流の着こなしも楽しめるはず」
なるほど、服に自分を合わせるのではなく、自分に服を合わせるという視点は、年齢を重ねた大人ならでは。この楽しみ方は、DAMAが新たに生み出したと言っても過言ではない、ファッション哲学なのかもしれません。