箏の音色が好きだから
中川 敏裕さん
箏演奏家
箏の音色が好きだから
私が幼い頃初めてその音色を聴いて憧れた邦楽器はお箏。邦楽家の父は、私が幼い頃から邦楽器に多くの人から親しみを感じて貰う方法を仕事仲間と試行錯誤していた。アンデルセンの"みにくいアヒルの子"を下敷きにした子どものための邦楽音楽劇が生まれたのもそんな経緯から。父の友人の舞踊作家が台本、父が作曲を担当し演奏家仲間が何度も家に集まり練習する音が子ども部屋にも漏れ聞えた。ある時、私が通っている幼稚園にも父達がその作品を実演しに来てくれた。幼い私は思わず「あっ!」と口に手をあてた。ヨチヨチ歩きのあひるの行進はファゴット、野鴨のお兄さんは篠笛、雪音の大太鼓、吹雪の描写は三味線で、美しい白鳥に生まれ変わる醜いアヒルの子のメロディはお箏で奏でられた。物語の世界に心酔し醜いアヒルの子にすっかり感情移入した私はそれ以来箏の音が好きになった。そして大人になった私も箏弾きの仲間入りをするようになった。相変わらず物語の世界に浸り箏を弾いている時は楽しい。共演者や聴き手の方々と共有出来る時間は私にとって幸せな時間だ。