壁を飾る楽しみ
美藤 まり奈さん
画家
壁を飾る楽しみ
壁を飾ることが楽しい。私はギャラリースペースのある古民家に暮らしている。生活空間は仕切りのない一間の作りなので、大きな家具や背の高い棚は置かないことにした。壁に余白があると何か飾りたくなる。毎日過ごす部屋を心地の良い空間にしたいと思った。以前、海外で買ったワインのポスターはダイニングテーブルの位置に収まった。ちょっとおしゃれなレストランのようでうれしい。本棚の上のスペースには夫と私の好きなものが置いてある。私が描いた夫の絵、最近聴いているノルウェーの歌手の写真、ドイツの彫刻家が十数年ぶりに来日した時に弾丸で東京に行き本人にサインをもらったDM、その他にポストカードや駄菓子のガムの当たり紙もある。本棚の上には夫がトイレットペーパーの芯に描いた「猫神様」が祀ってある。二十一歳で大往生した猫だった。彼女によく似た顔の猫の絵皿に魚を食べた日にはお供えをする。この部屋で一緒に暮らした思い出があり、今も見守ってくれている気がする。穏やかな日々にこれからも彩りが増えていく。